2018.09.07
【インタビューvol.18】日本の縫製業を次世代につなぐ!あるものを最大限に生かし、皆が幸せな服作りをめざす(合同会社ヴァレイ/谷 英希氏)
俳優・演出家、オーストラリアでのボランティアなどの多彩なキャリアを経て、家業の縫製工場を救うため25歳でアパレル企画会社である「合同会社ヴァレイ」を設立。
「日本の縫製業を次世代につなぐ」という理念のもと、全国の職人や技術を持った人たちに「マイホームアトリエ」を自宅で構えてもらい、デザイナーから委託された商品の製造を依頼している。
最近行ったクラウドファンディングでは、親子三世代の職人が作った白シャツを販売。職人がより良いものづくりに専念できるよう、様々な仕組みづくりに取り組んでいる。
Q. 谷さんは「家業を継いではいない」ということでしょうか?
A. はい。ぼくは継ぐことを断られたんです(笑)
母が縫製工場を経営していたのですが「これからはアパレルの時代じゃない。縫製業に入ってくるな」と子どものころから言われてまして。
なので、縫製業とは全然関係無く、俳優を志して専門学校に入りました。
在学中の19歳のころに自主映画を作ったんですけど、そのときに脚本、演出、出演、ブッキングまで全て自分で行ったんです。その行動力自体が注目されて、NHK奈良局のドラマ制作を手伝うことに。そのときのご縁で、学校に通いながらあちこちの放送局でフリーランスの演出家として仕事をするようになりました。
でも5年くらいやっていると、なんとなく先が見えたというか「このままテレビ業界にいても挑戦する気持ちが萎えていくだけだ」と感じたんです。そこで思い切ってテレビ業界は引退して。
その後1年間アルバイトをしながら英語を学んでオーストラリアへ。ボランティアなどをして過ごしていました。
Q. 家業とは全く異なる世界で活躍されていたようですが、そこからどうして縫製業へ関わることになったのでしょうか
A. オーストラリアにいた24歳のとき、母の会社の主要取引先が倒産したことがきっかけで。
とても大きな倒産だったので、その影響で周りの多くの工場が潰れたり、職人さんが仕事を失ったりして。母の工場はなんとか生き残ったのですが「このままではまた同じことになる……。いつまでも大きなメーカー依存の仕事をしていてはあかん。何とかしなければ」と思い、帰国しました。
しかし、母は相変わらず継ぐのには反対で。一方、職人ばかりの工場は営業面が弱く、今さら新しい仕事を取ってくるのは当然難しい。自分にできる形で何かできることはないかを考えた結果、「じゃあ自分が企画系の会社を起こして営業の代行をやる!」と提案し、勝手に始めてしまったんです。ぼくは子どものころから人と違うことがしたかったタイプで、起業には興味がありました。表現することが好きだったし、経営もある種自分の実現したい世界を表現する手段だと思ったんです。
Q. 若くしての起業。何が一番困りましたか?
A. 困ったのはお金ですかね。
実は起業する1ヶ月前の2016年12月に入籍したんです。できちゃった結婚で。 翌年2月に結婚式をすることも決まったのですが、オーストラリアで貯金を使い果たして残高が本当にゼロで(笑)。なので、恥ずかしい話ですが、親戚のところを回って先にご祝儀をもらい、そうやって集めた100万円を資本金にすることで、起業することができました。
もちろん、お金がなさすぎて会社設立の手続きも必死に勉強して、全部自分でやりましたね。
最初は本当にお金がなかったので、取ってきた仕事を母の工場で作ってもらってなんとか繫いでいたところもあります。そういう意味では家業があったことで設備投資をすることなく仕事ができた。家業があって助かったな、と思ってて。
使えるリソースは全て使ったという感じです!
Q. 日本のものづくりの現場と言えば、昨今、人員不足や職人の高齢化などが問題になっていますが、その辺りはどうお考えですか?
A. この30年くらいで日本の縫製工場は四分の一くらいに数が減っているんです。
その分、解雇された技術者たちも大勢いるんですね。ヴァレイではその人たちにマイホームアトリエとして自宅で開業してもらい、製造を請け負っていただいています。
ヴァレイが母体の工場となり、自宅では設置することのできない設備を用意し、特殊な加工などをやってはいますが、それ以外は協力先のマイホームアトリエへアウトソーシング。そのうちのひとつが母の会社なんです。
「日本の縫製業を次世代につなぐ」が会社のビジョンなので、ベテランの職人さんには製造だけでなく、全国のマイホームアトリエさんへの技術指導員として若手を育てる活動もしてもらっています。また、今後は趣味で縫製をしている上手な人をプロレベルに引き上げるカリキュラムも作りたい。プロレベルへ育成する環境を作ってあげれば、人員不足の解消につながると信じています。
写真提供:合同会社ヴァレイ
Q. そういった仕組みづくりはどのように生まれたのでしょう?
A. きっかけは2017年に奈良のビジネスコンテストに出場するために色々調べたことで、国内に作れる人はまだまだたくさんいると気づいたことです。
縫製業の世界では工場が別の工場に製造を依頼することが当たり前で、自工場で完結しないことに衝撃を受けて。調べてみると外注先がいっぱいある一方で、仕事に困っているところも多かった。なぜ困っていたかというと、縫製業界のITリテラシーはとても低く、今の時代についていけてなかったからなんです。メールやインターネットが普及した今も、FAXしか使えないとかざらで。だからぼくがやったのは、コミュニケーションを取りながら仕事の仕組みを整え、その困りごとを解決していくことでした。
お年寄りがわからない横文字言葉をわかるように翻訳して伝えたり、FAXだと白黒で分からないものを実際に色がわかるよう印刷して郵送で送ってあげたり。
つまりは、発注元と請負い側の目線の違いを合わせるようにしただけ。工場が時代についていけず取り残されていただけだったんです。なにも海外に委託しなくても、国内に作れる人はたくさんいるんです。そこに気づいたのが大きいのかもしれません。それに、顔を合わせて相手の困りごとを汲み取ることを大切にしているので、今でも全国の工場には直接伺うようにしていますし、家族のこととか、仕事に関係ないことも色々把握していますよ。コミュニケーションはうちの会社が特に大切にしていることです。
Q. 目標を大きく上回ったというクラウドファンディングでの挑戦、どういった目的で利用されたのでしょう?
A. ぼくは事業をするにあたり、BtoB、BtoC、メディア事業の3つを大切にしなければいけないと考えています。
実はパリコレに出るようなデザイナーの商品も作っているのですが、それが知られていなければ、素晴らしい技術があったとしても仕事につながることもない。結論から言うと、BtoBで仕事をとっていこうと思うと、BtoCに向けて宣伝していくほうが効果的だったりするんです。まずは知ってもらうことが大切なので。
うちの会社が何をしているのかを知ってもらい、手にとって見てもらうためのシャツを作る。それをメディアに取り上げてもらって、「実はパリコレも……」と出してもらうことで結果的にBtoBでマネタイズできるんです。そのためにプレスリリースのようなイメージでクラウドファンディングを活用しました。実際にいくつかの会社さんから問い合わせをいただいたので良かったです。
今後は秋以降に自社のオウンドメディアを立ち上げる予定です。ものづくりの良さをより伝えるには、現場を見てもらいたい。映像のクリエイターを入社させ、youtubeで生産背景などを全てアップしていきます。そうすることで関わってくれているデザイナーや職人たちもどんな人や技術と仕事をしているのか知ることができ、安心できると思っています。
Q. それ以外に今後の野望はありますか?
A. 地元に村を作りたいかな!(笑)
例えば羊を飼ってウールを育てるとか、綿花を育ててそこから服を作るなどできたら良いな、と。通貨がなくていいくらいのエコシステムができるのが理想です。料理を作る人と服を作る人で物々交換できるような。お金がかからない環境で心が豊かになると、人が集まってくると思うんですよね。コミュニケーションが取れる昔の日本みたいなものを作りたいんです。その村をつくるなら、やっぱり奈良でやりたいかなぁ。育ててもらったお礼みたいな気持ちもありますし、外に人が出て行ってしまうのは寂しいですから。
Q. 全国のアトツギの方にメッセージをいただけますか
A. 家業のいまの姿にこだわりすぎるのはダメだと思います。全く別の方向でものを考えることが大切かなと。
ぼくは年間800人くらいの人と会うようにしているんです。そうすると考え方が広がりますから。意図的に違う業界に入ってみる、もしくは違う業界の人と会うだけでも勉強になります。
つまりは「好奇心を持つ」ということ。色々な業界のことを知った方が良いですし、経営者なら、好奇心は必要ですよ!
(写真:宇野真由子/文:宇野真由子)
合同会社ヴァレイ
〒639-0202 奈良県北葛城郡上牧町桜ヶ丘1-8-5 松井ビル2-C
https://www.valleymode.com/
アトツギベンチャー編集部
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