2019.02.14

【インタビューVol.26】アトツギがアトツギを育てる風土でイノベーションを起こす!ものづくりの町・大阪市大正区の挑戦とは?(株式会社木幡計器製作所 木幡 巌氏/株式会社ダイカン 仁義 文章氏)

創業110年の老舗圧力計メーカーである木幡計器。既存事業に捉われることなく、ベンチャーマインドでIoT分野や医療機器分野の製品開発を進める代表取締役の木幡巌氏は、ものづくりの町大阪市大正区ならではのイノベーション創出支援施設「Garage Taisho(ガレージ大正)」を2018年4月に自社内に開設。地域のものづくり企業や他地域の製造業とも連携し、技術シーズを実用化すべく、スタートアップベンチャーの成長促進を支援している「老舗ベンチャー」である。一方、大正区にあるLEDサインやLEDの看板を手がける株式会社ダイカンの仁義氏は、若手アトツギとしてGarage Taishoのセミナーや大正区工業会青年部に参加している。

 

 

 

―― まずは木幡さんが家業を継がれた経緯やIoT分野や医療機器分野の製品開発のきっかけを教えてください。

 

木幡 いずれ自分が継ぐんだという意識は昔からありました。学生時代に友人を連れて工場の手伝いをすることもあって、早く家業を手伝いたいという気持ちもありましたが、まずは大手の空気圧の機械メーカーで2年会社員として働いたのち家業である木幡計器へ入社しました。当時、圧力計業界は価格競争が激しくなっていて、この先どうしたらいいのかと悩んでいましたが、「何か新たな取り組みをして切り抜けなければ」と仕事が終わった後に工業大学の夜間部で学んだり、以前から興味のあったコンピュータ関連の事業を会社内に新設したりと無我夢中でした。

 

 

そんな中、あるとき楽器店から金管楽器を吹く時の呼吸の圧力を測る演奏トレーニング用機器がつくれないか?という依頼が舞い込んだんです。これまでなら自社の製品とはあまり関係ない分野ですし、受けなかっただろう案件だったんですが「面白そうだな、やってみよう」と思って(笑)試行錯誤でなんとかつくり上げ、納品後に開発事例として自社サイトで紹介してみたところ、この紹介にたどり着いたという、とある医学部の研究室から呼吸の圧力を測る機器の注文が入ったんです。よくよく話を聞いていると、呼吸の圧力を測る技術は呼吸系のリハビリ分野で役立つと知りました。

 

 

その頃、当時先代の現役社長でもあった母が突然末期の肺がんと診断されて。呼吸器系の病気は初期症状がほとんどなく、母のように発見した時には重症化していることが多いのですが、当社の技術が早期発見に役立つ可能性もあるとわかったこともあり「呼吸の圧力が測れる計器」を積極的に開発しようと決意するきっかけとなったんです。

 

 

自治体の支援メニューも積極的に活用して製品化を進め、5年かけて医療機器メーカーとしての資格である医療機器製造販売業許可と医療機器製品としての製品認証を受けて2018年11月からオリジナルの携帯型呼吸筋力計の販売を開始することができました。今後は次の開発案件として気胸患者のための胸腔内圧測定システムの事業化をめざしています。

 

 

 

―― 自社工場内にIoT・ライフサイエンス分野のスタートアップのためのものづくり支援拠点「Garage Taisho(ガレージ大正)」を開設されたきっかけや想いを教えてください。

 

木幡 自分たちが自治体の支援を受けた時に、「事業化して後進のお手本となってください」と言われたことがずっと頭にあって。5年間に渡る製品化の過程で大正区内外に築いた製造ネットワークと産学官連携ネットワークを活かして、同じように挑戦したい方へ支援ができると思ったことがきっかけですね。

 

ものづくりのネットワークやノウハウなどの無形の支援だけでなく、当社が保有する3DプリンターやCNC加工機といった最新のデジタル工作機器や溶接機、圧力基準器、各種測定機器など・・試験装置も使っていただけますし、熟練の職人やエンジニアが製品開発や加工、試験検査業務を支援することもできます。
ものづくり以外にも、提携の法務、財務、知的財産、マーケティング等の各分野の専門家との連携で、事業化のための総合支援セミナーやサポートも行っているんです。

 

ものづくりの町、大正区から世界の課題解決につながる新しい共創型のものづくりエコシステムを創り上げる一助になればと思っています。

 

 

 

―― 仁義さんも大正区に家業があるアトツギですよね。入社したきっかけやGarage Taishoとの出会いを教えてください。

 

仁義 家業は1964年に祖父が創業した会社で、プラスチックの切り文字加工からスタートし、アクリル工芸や家具・什器製造に展開し、銅板美術教材や彫金サインを扱っていました。オイルショックを機に本格的に金属サイン製作を開始したと聞いています。現在は金属サインに加え、LEDサインを中心に樹脂切文字も扱う総合サインメーカーなんです。大きな商業施設などにも多く納入しているので、もしかしたらたくさんの人が日常的に目にしてくださってるかもしれません。

 

現在は父が社長を務めているのですが、父は家であまり仕事の話をしない人だったので、子どものころは会社のことについてはよくわかっていなかったですね。ですが、物心ついてきた頃には正月に親族が集まると父が会長の祖父や取締役の伯父たちと会社の話をしているのを聞いていてみんな仕事や製品、社員に誇りを持っていることはわかったので、「いつか自分もこの仕事をしてみたい」と思っていました。

 

 

入社後、いろいろな部署を経験したのですが、社員は優秀な方が多く、モチベーションも高いですし円滑に回っていると実感しています。現在は営業部に所属して、自分を磨いて実績を積みステップアップしているところです。

 

Garage Taishoに足を運ぶきっかけとなったのは、「知財関連のセミナー」でした。当社ではLEDサインやABS樹脂切文字等の製品で特許を取得しているものの、私自身特許についてきちんと理解できていなかったので、そこを学びたいなと思って参加したんですが、ここにはアトツギだけではなく起業をめざす方も集まっているので、すごく刺激を受けています。成し遂げたい目標に向かってゼロイチに奮起する起業家の方に負けていられないとも感じますし、いろいろな情報に触れる機会にもなり、自分自身のモチベーションが上がります。

 

また、大正区工業会の若葉会にも参加しているのですが、アトツギの先輩方と接する中で、一生懸命仕事に向き合っていれば、環境も変わっていくし、同じ社員と一緒に自然とベンチャーのような新しいことができる。そういう空気を肌で感じられるので、勇気づけられます。

 

 

木幡 実は私も大正区工業会の若葉会に参加していた頃、仁義さんのお父さんからいろいろと教えてもらったんです。アトツギはアトツギから学ぶというか、同じような悩みがわかるから、自分達が先輩に教えてもらったことを若い世代につないでいきたいなと思っています。

 

 

―― 仁義さん、今後の目標や野望はありますか?

 

仁義 現在はIoTへの取り組みや海外事業など新事業を展開しているところで、まずはそれに全力投球したいです。当社の強みは高い品質力とオリジナル製品の開発です。今後は顧客のニーズにより踏み込んだ形の製品開発が出来るような、組織にしていきたいです。

 

あと、今はBtoBが中心ですが、最近インターネットで個人事業主の方からもサインの問合せが入り、その際に「ロゴのデザインができますか」というご相談を受けることが増えてきていて。当社は基本的には既にあるロゴをサインに再現する仕事なので、現時点ではあまりロゴデザインは受けていないのですが、創業者の理念や想いを形にするロゴデザインの仕事はおもしろそうだなと感じていて。今後、新規事業として形にできればいいなと思っています。ロゴデザインが立体になると、またイメージが変わったりするものなので、立体になる前提でのデザイン提案をしていきたいですね。

 

 

 

―― 木幡さん、Garage Taishoの今後の展望について教えてください。

 

木幡  地域のものづくりの町としてブランド化に携わるようになり、ものづくりのイベントも認知され、毎年楽しみにしている子どもさんも増えました。参加してくれた小学生が中学生になり、職場体験で来てくれることもあって。「あのときの子がものづくりに興味をもってくれたんだな~」と思うと嬉しくなりますね。子どもさんたちがものづくりに興味をもって成長してくれることに、活動の意義を感じています。1~2年で効果があるものではなく、何年も継続して大きな成果が上がると思っています。地域の企業が元気になれるよう、自分達の経験を活かして支援を継続していければと思っています。

 

 

 

 

(文:三枝ゆり/写真:中山カナエ)

 


<会社情報>

Garage Taisho(ガレージ大正)
〒551-0021 大阪市大正区南恩加島5丁目8番6号(木幡計器製作所 内)
https://www.garage-taisho.jp/

 

株式会社木幡計器製作所
〒551-0021 大阪市大正区南恩加島5丁目8番6号
https://kobata.co.jp/

 

 

株式会社ダイカン
〒551-0002 大阪府大阪市大正区三軒家東3-1-7
http://www.daikan.ne.jp/


 

アトツギベンチャー編集部

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