2019.10.18

【インタビューVol.30】田辺の街を盛り上げたい!が原動力。「家業」と自分の「好き」の掛け算でまちづくりに挑戦するアトツギ(株式会社中村工務店 中村 文雄 氏)

世界遺産「熊野古道・闘鶏神社」を有する和歌山県田辺市にある株式会社中村工務店。創業から40年以上技と術を継承する大工集団として住宅の建築を手がけている。

 

取締役の中村文雄氏は田辺市を守り盛り上げる有限責任事業組合「LLPタモリ舎」のメンバーとして、古民家のリノベーション事業を展開。2017年、田辺市に築80年の空き家をシェアハウス、カフェ&バーを併設したゲストハウス「The CUE(ザ・キュー)」のリノベーションを手がける。地域に貢献する新事業に取り組み、本業にも相乗効果を与えている。

 

 

 

Q 子どもの頃に感じていた家業への思いや継ごうと思われたきっかけを教えてください。

 

A  子どもの頃は加工場で遊んでいましたね。職人さんのそばで木くずのゴミ拾いとか簡単なお手伝いをしたり、カッターナイフで木刀作ったり。私は三兄弟の末っ子で、親からは「3人目やから好きなことしていいよ」と言われていたけど、いずれ実家に戻って何かしたいとは思っていました。

 

ゆくゆくは長兄が家業を継ぐだろうというのは暗黙の了解であったんですけど、長兄と次兄は大学で建築学科だったため、私は兄たちとは少し違うけど家業の役に立つかなと思い、不動産金融学科を専攻したんです。

 

卒業後は東京の不動産会社に入社したのですがリーマンショックの頃で、10年勤めた先輩でも業績が悪いと退職していく様子を見て、このままサラリーマンを続けたいのかと真剣に考えるようになって。私は高校の同級生と結婚するのを機に「地元に戻って自分も家業をやろう」と決めました。

 

 

 

Q 実際に家業に入られていかがでしたか?

A 最初の7~8年は職人さんについて大工修業の日々。子どものころ、子守してくれた職人さんに師事したこともあって(笑)。自分たちで墨を付けて加工したり、カンナで木を削ったり、職人として技術を磨けるのは、おもしろかったですね。

 

今は特に、設計図もないような古い家の改修に面白さを感じています。

中村工務店では小学校やホテル等の公共事業の建築や住宅を手がけているんですが、最近の住宅は説明書通りに組み立てるケースも増えてきており、職人の技術に触れる機会も減っているんです。一方で、古い家の改修の仕事は、バラした時の状態を見て初めて昔の大工がした仕様がわかることも多く、めちゃくちゃ勉強になる。古い家を扱うことでしか習得できない技術がいっぱいで。

 

はじめの頃は自分の興味や好きなものがはっきりわからなかったんですが、古い家を手がける機会を通して、古民家が好きということにも気づくことができました。

 

それから、うちには昔からの職人さんがいるのが強みのひとつだと実感しています。職人さんたちはクセの強い人も多いけれど、長年の信頼関係で強い絆があると感じていて。これからの大工を育て、技術を継承することは、僕らの使命だとも思っています。

 

とはいえ、昔のように技術を習得するために10年も時間を掛けていてはいられません。もっと短期間で高度な技術を身につけられる人材教育に力を入れていきたいですね。

 

 

 

 

Q 古民家をリノベーションしたカフェバー&シェアハウス付きゲストハウス「The CUE」を手がけたきっかけを教えてください。

A 「30才までに何かしたい」という気持ちがあって。田辺市主催のリノベーションスクールに参加したことがきっかけで、田辺市の起業を支援し産業を作るプロジェクト「たなべ未来創造塾」の担当者に声をかけてもらったことから始まりました。

 

8年目頃から現場から離れ、事務方の仕事をするようになり時間ができるようになって。もっと手を動かしたくなっていたことと、そのとき29才だったので「30才までに何かしたい」という思いから、田辺市主催のリノベーションスクールに参加したんです。そこから「たなべ未来創造塾」につながりました。

 

「たなべ未来創造塾」は地元の若手が田辺の街のこれからを考える会で。工務店、家具店、旅館業、食品加工業、食品運送業、デザイナー、メディア等さまざまな業種の若いメンバーが集まりました。

 

田辺市の中心市街地は、江戸時代は熊野詣の宿場街として栄えたのですが、現在は国内外からの観光客が紀伊田辺駅に降り立ってもすぐに熊野古道沿いの地域に向かってしまい、滞在する人がほとんどいません。それに多くの観光客を受け入れる宿泊施設や訪れる場所も少なく、どうすればかつての賑わいを取り戻せるのか、それぞれが意見を交わす時間がとても刺激的でしたね。

 

その後、「田辺を守る」「田辺を盛り上げる」そんな合い言葉を元に、2017年に「LLPタモリ舎」を結成しました。

そこから、紀伊田辺駅前の「味光路」という商店街の近くにある築80年の古民家に出会い、古民家を活かすためにリノベーションをする、ゲストハウス「The CUE」のプロジェクトがスタートしたんです。

 

 

 

Q 「The CUE」のプロジェクトではさまざまなご苦労があったと思いますがやりきれた理由は何ですか?

A 私がやりたいことを後押ししてくれる先輩方や何でも話せるいいメンバーに恵まれました。人と人とのつながりが広がって乗り越えることができたと思います。

 

古民家の改修は中村工務店が担当したのですが、工事を進めていく中で建物のダメージが予想以上に大きく、当初の建築工事費が予算をオーバーしてしまって。工期を2期に分けてカフェ&バーエリアの改修費をクラウドファンディングで募集することにしたんです。

 

商工会の会員の方にも協力をお願いするなど協力者集めに走り回って、目標250万円のところ350万円集めることができ、シェアハウスとゲストハウスは2017年5月にオープン。カフェ&バーは10月にオープニングセレモニーをすることができました。

 

 

無事オープンはしたんですが、実はスタッフの人材が見つからず12月末まで閉店状態になってしまったんです。

 

どうしたらいいのか困っていたところ、メンバーの同級生でホテルのフロントマネジャーをしている人を紹介してもらうことができ、やっと正式にお客さんを受け入れることができるようになりました。

 

今、カフェ&バーでは地域食材を使ったジビエ料理を出しているのですが、地元出身で以前は長野のオーベルジュで働いていたシェフが担当してくれています。食肉も地元の猟友会から仕入れるなど、いろんな縁がつながって成り立っています。

 

 

実は、父にはプロジェクトに参加していることを内緒にしていたので、バレた時は肩身が狭かったけど「本業は疎かにしない」と約束し、どちらも頑張りました。「The CUE」のプロジェクトの存在は、本業を頑張るためのいい原動力にもなったと思います。

 

 

 

Q 今後の展望について教えてください。

A 「The CUE」のリノベーションを手がけたことが家業(中村工務店)の実績として認知され、古民家のリノベーションの依頼も増加しました。リノベーション事業を強化していきたいですね。

 

また、テレビやメディアからの取材も増え、職人さんのモチベーションアップにもつながっています。職人の息子さんが2名入社してくれていますし、1年に2人のペースで若い人が増えているのは嬉しいなと。若手の育成にも力を入れていきたいです。

 

 

 

Q 事業を継ぐかどうか悩んでいるアトツギへメッセージをお願いします。

A  「好きな仕事って何だろう」と考える前に、与えられた環境で一生懸命取り組んでいると、いろんな視野が広がっていきます。その中で自分が好きな仕事が見えてくるのではないでしょうか。

 

私自身を振り返えると大工修業を懸命にしたからこそ、古民家の改修が好きだとわかり、やりたいことが見えてきました。まったく新しいことでなくても、家業の強みと社会課題を考えてリンクさせることで、やりたいことが見えてくる気がします。

 

それから、「やりたいこと」は思っているだけじゃなくて自分から発信することが大切だと思います。人と人とのつながりを通じていろんな方から協力してもらえるチャンスが広がりますよ。

 

 

 

(文:三枝ゆり /編集:川崎康史/ 写真:中山カナエ)


<会社情報>
株式会社 中村工務店
http://s-nakamura.co.jp/
〒646-0216 和歌山県田辺市下三栖1499番12号


 

アトツギベンチャー編集部

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