2019.10.25

【インタビューVol.31】訪問看護からメンズコスメまで。「事業を永続させる」ためにも異業種に進出する墓石メーカー(株式会社加登/加登 隆太氏)

墓前に手を合わせて、先祖や故人に思いを馳せ、感謝をする。お墓参りは日本人に根付いた習慣だ。株式会社加登は、そんな霊園・お墓分野において事業を展開する企業である。関西一円で霊園の運営や、墓石の建立・メンテナンス等を手掛けている。

 

取締役社長を務める加登隆太氏は、自身がアトツギであることを当たり前に受け入れて育った。大学卒業後、海外留学を経て株式会社加登に入社。「人口減少などの背景もあり、市場の縮小は避けられない」といった危機感から、新たな事業の柱を作ろうと果敢にチャレンジを重ねていく。

 

レストラン、訪問看護ステーションなど霊園事業とは異なる領域に進出。中でも、“繊細男子”をターゲットとしたメンズコスメ「BOTCHAN(ボッチャン)」は、色とりどりのおしゃれなパッケージや斬新なコンセプトが多くの支持を集め、話題となっている。また、「BOTCHAN」商品開発の経緯で聞いた声がヒントとなり、血縁関係の有無にかかわらず大切な人とともに入れる「ペア墓」も生み出した。

 

 

 

Q. 子どもの頃から家業を意識していましたか?

A. 周りから「後継ぎ、大変やろうけど頑張りや」などと声を掛けられてきたので、意識はしていました。

 

でも、自然に敷かれているそのレールに乗ることが全然嫌ではなくて。そう思えたのは、友達のように父と仲が良かったからかもしれません。「父のようにやればできるだろう」と思っていたんでしょうね。

 

大学卒業後は海外留学に行ったのですが、1年半ほど経ち、「そろそろ帰国してどこかに就職しようかな」と思っていました。すると父から、「遠回りしても仕方ない。うちに来い。」と言われたので、実家に戻ったのです。2000年前後だったのですが、当時はまだまだ景気も良く、1つのお墓の大きさも今の2倍ほどでした。

 

 

 

Q. 霊園事業の流れが変わったと感じたのはいつ頃からですか?

A. ここ10年ほどですね。「墓離れ」や「墓じまい」といった言葉が聞かれるようになり、マスコミが報じたことで樹木葬や散骨がブームとなって、煽りを受けました。

 

そうした時代の流れに合わせなければと、業界全体が安売りに走ってしまったことで、よくないスパイラルに入ってしまったなと。もちろん、核家族化が進んで、先祖を敬う気持ちが薄れてしまいがちになったという背景もあります。

 

お客様が安心してお参りできる環境を守るためにも、霊園事業は永続させます。ただ、今後は日本の人口が減る一方。霊園事業は合計出生率と密接に連動しているため、今後需要が減り、事業全体が縮小することは明らかです。本業を守るためにも、霊園にこだわらず事業展開をしていかなければならないし、資金的にもまだ余裕のある今のうちに新たな事業の柱を作っておきたいと思って、さまざまな事業にチャレンジしてきました。もちろんうまくいかなかったものもたくさんあります。

 

 

 

 

Q. たとえばどのような事業に挑戦してきましたか?

 

A. 霊園事業と関連するものでいえば、5年ほど前、シンガポールで納骨堂を普及させようとしました。立体駐車場のように、ICカードをかざすと骨壷が目の前に運ばれてくるシステムです。

 

用途地域の制限が厳しくて当時は実現が難しかったのですが、また時期を見てチャレンジしたいと思っています。

 

他には、イタリアンレストランを開きました。こちらは流行り廃りも激しい業界であることと、売り上げがお店の規模によって決まってしまい、新しく出店・拡大し続けるのは大変という判断から6年ほどで撤退しましたが。今も続けているのは、訪問看護ステーションの事業です。在宅看護スタッフの派遣事業なのですが、最近は早期退院されて在宅看護を必要とされている方も多いですから。と思い、始めました。

 

 

 

Q. 霊園事業とは異なる領域に進出するのは、大変なようにも思います。どうやって新しい事業の種を見つけているんですか?

 

A. 私も、当初は「墓石を利用して何かできないだろうか」と、本業の延長線上で事業を考えようとしていました。でも、全然いいアイデアが浮かばないし、固定観念に引きずられてしまうので、父も私も「まったく異なる分野で事業をしよう」という共通認識を持つようになって。

 

だから、経営者の会や異業種交流会などの場へ積極的に顔を出して、人に出会い、生の情報を得ることを大切にしています。「新しい事業の種を探しているんだ」と伝えたら、いい話を紹介してもらったり、一緒に仕事をしたいと思える仲間に出会えることもあるので。

 

父からは「会社を揺るがすようなことをしたら、それは挑戦じゃなくて博打や」とも言われてきたので、初期投資を抑えて、できる範囲からチャレンジしてきました。だから、今まで「この事業をやってみようと思う」と父に話して、反対されたことは一度も無く、いつも「ええやん」と言ってくれます。

 

 

 

Q. そんな中、立ち上げられた男性向け化粧品ブランド「BOTCHAN」が大きな話題となり、人気を集めています。この事業はどういったきっかけで始めたのですか?

A. 3年ほど前に、経営者の会で化粧品の原料メーカーの方と出会って、仲良くさせてもらっていたんです。話を聞く中で、「化粧品はOEM製造が主流で、自社で工場を持たずに化粧品を作ることができる」ということを知って。コンセプトや素材しだいで成功できる可能性のある事業だし、海外進出も狙えると思いました。けれど、一番は、「楽しそうやからやってみたいな」という気持ちからでした。

 

デザイン系の仕事をしていた妹とコンセプトについて話し合い、自分たちの理想を表現してくれそうなデザイナーのもとへ飛び込みでアプローチしデザインが完成していきました。

 

また、縁あって、元モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトングループの福岡英一さんに、ブランドディレクターとしてお手伝いしていただいて、ターゲットを『繊細男子』に絞り込むことに。販売してみると、デザインがとても好評で。使ってもらうと中身の良さも実感してもらえました。ギフトとしても人気なことや、シェアコスメとして男性と女性が一緒に使ってくれているなど、想定していなかった需要も見えてきたんです。

BOTCHANのブランドコンセプトである「『男らしく』を、脱け出そう」には、「自分らしさを追求していこうよ」という思いも込めていて。

 

メンズコスメブランドとして商品を展開していくだけでなく、下着や雑貨などさまざまな商品を展開することで「ああじゃないと」「こうしなくちゃ」に縛られない、自由な生き方を提唱していくブランドに育てしたいと思っています。

 

 

 

Q. 今後力を入れていきたいことはありますか?


(画像:株式会社加登 公式HPより)

 

 

A.  「ペア墓」(愛称:よりそい)の展開です。「BOTCHAN」の商品開発の過程で、LGBTQの方たちとお話をさせていただきました。その中で、「お墓は、血縁関係のある家族で入るものとされているので、パートナーと一緒に入れない」という悩みを聞いて。「彼らにお墓を提供できてなかった」と気付いたんです。

 

提供できていなかったことを申し訳ないと思うと同時に、「家族の形が増えているのだから、お墓ももっと多様でいいのではないか」と思って作り、一部の地域から展開しています。各霊園側の規定、永代供養のための墓守などまだクリアしなければならない問題もありますが、「よりそい」のようなお墓が当たり前になってほしいと思います。

 

他に、公益財団法人でインドネシアなど海外から技能実習生を受け入れる事業にも取り組み始めています。技能実習生が安心して働ける環境を整えていきたいですね。この事業を任せているメンバーはもともと当社で働いてもらっていた者なんですが、「新しい分野を学ぶのは楽しい」と言ってくれています。そういった姿を見ると嬉しいですね。

 

 

 

Q. 全国のアトツギの方にメッセージをいただけますか。

A. 自分自身の個人の能力をもっと信じてほしいです。「今の事業が持つ技術やノウハウをどう活かすか」という家業ありきの発想ではなく、自分が得意な分野や好きな分野に飛び込めばいいんじゃないかと。

 

その方が、業界の流れや常識に引っ張られず、アイデアが湧くものです。BOTCHANも、異業種の私たちが「いい」と思うものを作ったからこそ、あのデザインにできました。

 

自分が好きなことをする方が面白いし、面白いことをしている場には自然と仲間が集まるもの。だからこそ、自分のストロングポイントが何なのかを見つけてほしいですね。たとえば数字に強いのか、アイデア出しに強いのか、人をまとめることが得意なのか。見つけた自分の強みを活かして、失敗が許されるうちにできるだけ早いうちにチャレンジしてみてください。

 

 

(文:倉本祐美加 /編集:川崎康史/ 写真:中山カナエ)

 


<会社情報>
株式会社 加登
https://www.forever-kato.co.jp/
〒532-0011 大阪市淀川区西中島5-9-22


 

アトツギベンチャー編集部

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