2020.12.28
【インタビューvol.41】「家業が続いているのは必要とされているから」独自性や強みを磨き上げた100%有田みかんジュースで世界へ (株式会社伊藤農園 伊藤 彰浩 氏)
冬の風物詩であり、日本人に身近な果物「みかん」。中でも、日本屈指のみかん生産地である和歌山を代表するブランドが、400年以上の歴史を持つ「有田みかん」だ。
この有田みかんを使った100%みかんジュースやマーマレード、みかん茶などを製造・販売しているのが1897年創業の 株式会社伊藤農園である。
もともとはみかんの生産と卸を主事業にしていた伊藤農園だが、48年前、みかんの値段が大暴落。みかん産業衰退の危機感を強く感じる中、30年ほど前に事業を見直し、6次産業化でジュースなどの製造・販売を始めた。
今回お話しを伺ったのは伊藤農園の4代目・伊藤 彰浩 氏。危機的状況の中6次産業化を進めた3代目である父の仕事の様子を幼い頃から横で見ていた彰浩氏は、「このジュースはもっと売れるべき商品だ」と思っていたそうだ。
その後、2006年に家業に入りブランディングと販売戦略に注力。目覚ましい成果を挙げ、売上は10倍以上となった。どのように考え、行動して事業成長を成し遂げたのか。事業成長に伴い、どんなことに苦労したのか。ダイナミックな家業変革エピソードを伺った。
父親の代で6次産業化、「家業に入って商品の販売戦略を考えよう」と決意
Q. 伊藤さんは、子どもの頃から家業を継ぐことを意識されていたのですか?
A. 父親から「継げ」と言われたことも無かったので、意識しておらず、大学卒業後は酒類の専門商社に就職して東京で働き始めました。
ただ、住んでいた家が事務所と一体だったため、幼い頃から家業は身近な存在でした。父親がみかんジュースの試作を始めたのも僕が小学生の頃だったので、試行錯誤する様子をそばで見てきたんです。
就職してからも、東京の百貨店の催事がある際には手伝いに行っていて。ある時、お客様にジュースを販売していて「なんでこんなにおいしいの?」と直接言っていただけたのがすごくうれしかったんです。一方で、「このジュースは、工夫しだいでもっと売れる商品なのに」と悔しさもありました。
それから2年後の2006年に、父親が長期間の入院をすることになって。そのときに、「帰ってけえへんか」と言われたんです。父親の体が心配だからそばにいたい気持ちと、家業を手伝う中で自然と「継ぐんだろうな」と思っていたこともあって、家業に入ってジュースの販売戦略を考えようと決意しました。
Q. みかんジュース作りは、お父様の代(3代目)から始めたそうですが、どのような背景があったのでしょうか?
A. 規格外品のみかんを高く買い取って付加価値を付けることで、有田みかんの農家さんに恩返しができればという想いがあったんですよね。
当社は創業時、自社でみかんの生産も行っていましたが、主事業はみかんの卸売業でした。近隣の農家さんからみかんを買い取って、船で東京や大阪に運んでいたんです。しかし、父親が社長に就任した後、みかんの大暴落が起きてしまって。みかんの大暴落の直後、2代目の祖父が死去し、会社を引き継いだ父は会社が生き残るためにも、長年支えてもらってきた地域の農家さんを支えるためにも変わらなければいけないと思っていました。
特に当時問題となっていたのが、大きすぎたり小さすぎたり皮に傷が付いたりしたために出荷できなくなった、規格外品みかんの扱いです。農協で買い取りをしてくれるものの、1キロあたり2~3円と、車でみかんを運ぶだけで赤字になるような状況でした。
その様子を見て、「味はおいしいのだから、私たちが付加価値を付けて商品化することで、規格外品を高く買い取って農家さんを助けられるのでは」と父親が思いまして。そこから徐々に、みかんの卸売を辞めて、みかんを使った加工品の製造メーカーへと転換していったという経緯があります。
海外輸出やインターネット通販の開始、事業成長に伴う組織化を主導
Q. 家業に入ってからは、どんなことに取り組まれましたか?
A. まずは父親の横に付いて、全体の仕事の段取りを見るなど現状を把握しました。その上で、最初に取り組んだのがブランディングです。
(画像提供:株式会社伊藤農園)
当社のジュースにはいくつか特徴があります。まず、無添加であること。次に、皮ごと搾る方式ではなく、みかんを半分に切り、お碗型の機械に乗せて、上から優しく押して果肉のみを搾っていることです。こうすることで、皮の渋みが含まれずすっきりとおいしい味に仕上がります。そして、温州みかんだけでなく、和歌山で収穫できるさまざまな柑橘を使った20種類以上のジュースを作っていることも特徴です。
(画像提供:株式会社伊藤農園)
こだわっているので、価格も高価格帯でした。ただ、品質へのこだわりとおいしさには僕も自信を持っていたので、しっかりとブランディングを行い、価値を理解いただける方に届けるしくみを構築しようとしました。
Q. ブランディングや販売戦略のために、どんな方法を取ったんですか?
A. まず百貨店のバイヤーさんに商品の独自性を伝えて、お中元やお歳暮のギフトカタログに商品を載せてもらいました。
並行して進めたのが、海外への商品輸出です。食品展示会で知り合った商社の方と一緒にフランスに渡って、ミシュランの三ツ星レストランのシェフに商品を売り込んだところ、いい反応が得られました。採用していただいてからは、「あのシェフが選んだ」というブランドになり、今ではEUを中心とした世界32か国の高級百貨店や高級スーパーで取り扱っていただいています。
また、同じタイミングでインターネット通販による商品販売も開始しました。順調に成果は出て、僕の入社当時に約1億円だった売上は現在12億円になっています。
Q. 取り組みが実を結び、順調に成長されていますが、一方でどんなことに苦労されましたか。
A. 組織化ですね。僕が入社した当時は正社員0名、パート10名でしたが、2010年から新卒採用も開始して、今は正社員が45名、パート・アルバイトを合わせて80名ほどの組織になっています。
毎年売上が1.2倍、1.6倍と伸びているからこそ、やってもやっても仕事が追い付かない日々を過ごしていました。繁忙期は特に、社員総出でみかんや商品の箱詰めといった作業をするのですが、単純作業が続くと「なんでこの仕事をしているんだろう」と辛く感じてしまうこともあったと思います。そのせいか、疲れて辞めていく人も結構いて。
そんな状態を何とか脱したいと思い、3年前に経営理念・ミッション・ビジョン・クレド(行動指針)を定めて、組織の方向性や価値観を示し共有することにしました。目的を持つことで、乗り越えられることも多くあるのではないかと思ったからです。以来、社員の定着率も上がってきています。
「家業が続いているのは必要とされているから。独自性や強みを磨き上げて」
Q. 新しい販路の開拓、新卒採用の開始、経営理念の策定など、さまざまなチャレンジをされていますが、お父様の反応はいかがですか?
A. 厳しいコメントをもらうことも多かったです(笑)。
新卒採用を始めるときには、「こんなところに若者は来ないやろ。それに雇ったとして、彼らがやりがいを感じられる仕事を提供できるんか?」、経営理念やビジョンを作るときには、「そんなん形だけや。誰が見んねん」「ビジョンを語ったところで10分後には考えが変わってるかもしらん。商売はそういうもんや」と言われたり(笑)。
そのたびに説得して実行して結果を出して、決断が間違いじゃなかったことを示してきた気がします。ただ、会社がここまで成長できたのは、父親が作ってくれた素晴らしい商品があるから。尊敬や感謝の気持ちは常に持っています。
Q. 伊藤さんが描いている、今後のビジョンを教えてください。
A. 5年後に売上20億円達成を目指しています。その目標から逆算して、社員の採用や組織づくりに取り組んでいきたいです。
他には、有田に「伊藤農園ヴィレッジ」を作るという夢もあります。都会から遊びに来た人が、農業体験やみかんの収穫体験をした後、収穫したみかんをジュースやマーマレードに加工する体験ができるような、夜は和歌山の海の幸を堪能して、ゆったり宿泊して帰ってもらえるような施設が作れたらいいなと構想しています。
Q. 最後に、アトツギに向けてのメッセージをお願いします。
A. これまで商売が続いてきたということは、その商品やサービスが誰かに求められ、誰かの役に立ってきたということです。だからこそ、独自性や強みを磨き上げて、そこに新しい自分の色を付けていくことが大切ではないでしょうか。
まずは、なんでも挑戦してみることが大切ですが、トライにお金や時間が掛かりそうなら、それは一旦横に置いておいて、すぐ出来ることをすぐ着手するよう心掛けてみるのが良いかもしれませんね。
たとえば僕の場合、伊藤農園ヴィレッジを作る夢がありますが、いきなり広大な土地を探しているわけではなくて、まずは直営店にたくさんのお客様を呼べるように頑張ったり、みかんの一日収穫体験イベントを催したりと、出来ることから始めています。
周囲のアドバイスは素直に聞き入れ、スピード感をもってトライ&エラーを繰り返してください。トライ&エラーを繰り返していけば、絶対いい方向に進みますから。
(文:倉本祐美加、写真:中山カナエ)
<会社情報>
株式会社伊藤農園
〒649-0435 和歌山県有田市宮原町滝川原498-2
アトツギベンチャー編集部
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