2019.11.01

【インタビューVol.32】国内初!絵画教室の全国FC展開。30年続けてきた志を未来につなぐ(株式会社TAJIRO工房 三好 亜海氏)

2015年に『TAJIRO工房』を創業した三好 亜海氏。30年以上前から営んできた、母の絵画造形教室『アトリエレゴット』を未来につなぐために立ち上げた。講師未経験者でも開校できる、国内初となる絵画教室フランチャイズ事業をスタート。経済産業省主催の女性起業家応援プロジェクト『2018年度 LED関西』のファイナリストにも選ばれた。

 

現在、関西圏内をはじめ、東京都や長野県など全国的に開校。全国22校、全校生徒総数約200名を誇る。その他、絵画レンタル、レンタルアートギャラリー、フラワー教室などの事業も展開。2019年8月には法人化を果たし、さらなる拡大をめざしている。

 

今回、三好氏が母の絵画造形教室に対してどのような印象を持っていたのか、どのような流れで家業を受け継ぎ、今後どのような展望を抱いているのかをお伺いした。

 

 

 

幼い頃から身近にあった、母の絵画造形教室

 

――お母様の家業(絵画造形教室)について、どのような印象を抱いていましたか?

 

もともと、家業という印象は全く持っていませんでした。私も3歳くらいのときから生徒のひとりとして母に教わっていましたが、家事と育児の合間にしているイメージが強くて。父は会社勤めでしっかり働いていましたし、絵画造形教室が大事な収入源というわけではありませんでした。

 

むしろ、絵画の道からは距離を置こうと思っていたほどで。画家の母に育てられ、父はデザイン関係の仕事をしていて、姉は美術大学に進み、我が家はいわゆる芸術一家だったんですね。あらかじめ決められた人生のレールに乗るのが嫌で、私は大学の経営学部に進学し、卒業後は大手の旅行会社に入社して営業職に就いたんです。

 

――どのようなきっかけで、お母様の絵画造形教室に関わるようになったのでしょうか?

 

結婚を機に旅行会社を退職したのがきっかけ。前職の仕事はとても楽しくて、いろんなことを勉強させてもらったんですね。だから家事だけをする生活に物足りなさを感じていて、「仕事がしたい」「自分で何かをしたい」と毎日のように言っていました。そんなとき、母が「絵画造形教室で何か一緒にやってみる?」と誘ってくれたんです。

 

まずは退職後に通っていた職業訓練校で学んだことを活かして、アトリエレゴットの公式ホームページをつくりました。そこで、何か他にはないようなおもしろいことに取り組みたいと考えてはじめたのが「絵画レンタル事業」と「絵画教室のフランチャイズ事業」です。2016年から幼少絵画造形教室を中心に全国展開をスタートしました。

 

 

 

絵画造形教室の理念と母の指導力を未来につなげる

 

――絵画造形教室に関わりはじめたときから、いずれは事業を大きくしようという気持ちはあったのでしょうか?

 

そうですね。事業を展開するなかで、私自身も絵画造形教室の魅力に気づいていきました。日々の生活に絵を描くことは必ずしも必要ではない。でも、未来を豊かに生きるための想像力を養うことができる。そんな想いのもと、絵画造形教室を続けてきた母の素晴らしさを再認識しました。私が生まれたときから絵画造形教室を開校し、多いときには200人近くの生徒数を受け持ちながらも、家事と育児をこなしていた母は本当にすごい。ひとりの女性として、心から尊敬しています。

 

でも、いつか現場に立てなくなることで、大切にしてきた理念や培ってきた指導方法が失われてしまう。それがとてももったいないと感じたんです。そこではじめて、母の絵画造形教室を未来につないでいかないといけないという意欲が大きくなりました。

 

――法人化については、いつから考えはじめたのでしょうか?

 

法人化について本格的に考えるようになったのは、『LED関西』の出場を決めたときくらいの時期です。でも、母は全くその気がなくて(笑)。当初は事業を大きくするつもりはなく、私の進めたい方向にも乗り気ではありませんでした。

 

理解を得られたきっかけとなったのは、LED関西のファイナリストに選ばれたこと。母が最後のプレゼンテーションを観にきてくれたんです。フランチャイズ事業のビジネス的な展開だけでなく、母が大切にしてきた絵画造形教室を失いたくないという気持ちを熱く伝えました。その結果、母からは「あなたの気持ちがよく分かったし、私も大きくしていきたい」と言ってもらえて、家族も協力的になってくれて。2019年8月、母と一緒に法人化を実現できました。

 

 

 

数十年分の経験と存在感を活かせるメリット

 

――お母様の絵画造形教室を継ぐ形で起業したことについて、改めてどう感じていますか?

 

とてもラッキーだなと思います。私だけで起業しようと思ったら、たった数年間の社会人経験をもとにチャレンジしないといけない。でも、絵画造形教室を継ぐという形なら、母が培ってきた数十年分の経験を活かすことができる。私が物理的に持つことのできない技術や経験を活かせるのは、とてもありがたいことですね。

 

あと、私は前職の会社を「考えることを仕事にしたい」という気持ちで選びました。今思えば、その価値観は、アトリエレゴットが大切にしている「想像力は生きる力」という理念と共通しているなと感じていて。幼い頃に生徒として教わっていた絵画造形教室に関わることができて、改めてうれしいなと思っています。

 

――三好さんが前職で培った経験は、どのようなところに活かされていますか?

 

基本的なビジネスマナーはもちろん、お金や時間に対する考え方、効率的に物事を進める方法などが随所で活かされているなと感じています。その反面、企業に勤めたことがない母とは発想の違いでぶつかることが多かったですね。例えば、コピー用紙1枚にしても、母はもったいないという発想なのですが、私は時間のほうが貴重だという発想なので(笑)。

 

でも、そこは持ちつ持たれつなのかなと。一緒に仕事をしていて思うのは、母の現場力はさすがだなということ。画廊(レンタルアートギャラリー)は高級感ある空間なのですが、お客様をご案内するとき、数十年の経験を重ねてきた母が現場に立つほうが説得力があります。お互いの良さを活かしあいながらやっていきたいですね。

 

 

 

生まれたときから、そばにある家業を継ぐ意味

 

――今後、取り組みたいことについて教えてください。

 

絵画造形教室のフランチャイズに力を入れて、全国100校の開校を目指したいですね。でも、どれだけ大きくなっても譲れないのは先生方の「志」です。収入ありきではない。子どもたちと自分の人生の豊かさのために開校するという気持ちを大切にしています。だからこそ、どんなに遠くても、京都の本校に必ず足を運んでいただき、実際に対面してお話をさせていただいているんです。私たちの理念と違う場合は、開校後であってもお断りさせていただいています。

 

あとは、母の負担を少しずつ減らしていきたいですね。そのためにも、これまで培ってきたノウハウを指導書に落とし込んでいます。ある程度は仕組み化できていますし、フランチャイズの先生として確立できていますが、さらなる改善が必要です。少しずつ母が現場に立つ時間を縮小して、母と父が2人で過ごす時間を持ってもらいたいですね。

 

――最後に、家業での挑戦を考えているアトツギへメッセージをお願いします。

 

先ほども申し上げた通り、自分がどう頑張っても得られない数十年分の経験をもとに仕事ができるのはとても恵まれています。それを使わない手はないかなと思いますね。あと、改めて考えてみれば、家業は自分が生まれたときから、ずっと身近にある仕事なんですよ。うれしいことも、大変なことも、肌で感じながら理解している。その上で、自分の想いや発想を乗せてチャレンジできるのはとても尊いことだなと思います。家業をどのように活かしていくかは自分次第。いずれにしても、家業のもとに生まれたことは、とても幸せなことだと思っています。

 

 

 

(文/写真:山本英貴)


<会社情報>
株式会社 TAJIRO工房
https://tajiro.jp/
〒611-0011 京都府宇治市五ヶ庄広岡谷2-490


 

アトツギベンチャー編集部

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