2017.10.16
【インタビュー vol.2】「現場」と「インテリア業界のタブー」に商機があった(リビングハウス/北村 甲介氏)
大阪の家具の街・南堀江に本店を構えるインテリアセレクトショップ「リビングハウス」
3代目の北村氏は「あなたのくらしに魔法をかける」をコンセプトに、国内外のブランドの家具やインテリア雑貨を厳選し、関西、関東を中心に全国で21店舗を展開している。
一方で、ルームスリッパ専門ブランド「Skips!」を立ち上げ、全店にショップインショップとして導入。入店促進や集客装置として成功。
家具・インテリア業界では先駆けて、分割手数料無料サービスを開始。地方の家具店とのパートナーショップやプロデュースなどの新事業や、ファッション・カフェとのコラボレーションなど業界初の試みやタブーといわれることにも挑戦し、事業領域の拡大も積極的に行っている。
「もともとは家業を継ぐつもりはなかった」と話す北村氏が家業を受け継ぎ、新事業を立ち上げて拡大していくきっかけや想いについて伺った。
Q 子どもの頃から家業を継ぐつもりはなかったのですか?
A 全く考えていなくて(笑)
父親から「継いでほしい」と言われたこともありませんでした。大学も東京、卒業後東京を離れたくなかったですし。周囲の友人たちが大企業を選ぶ中で、僕はベンチャー企業を中心に探して入社したのですが、これがひどい会社で(笑)。1年で退職したんです。その後、何をしようかと考えた時に家業が頭をよぎって。「転職はいつでもできるけど、継げばよかったと将来後悔しても遅い」そう考え、父に相談したんです。
Q 継ごうと決意するまでの気持ちの変化やプロセスを教えてください。
A 実は、家業の家具やインテリアに全く興味がなかったので、何もわからない状態でした。
ただ、以前から父が「日本の家具・インテリアは遅れているから、ビジネスチャンスがある」と言っていたので、「この仕事をしてみて、その可能性を体感できなかったら辞める」という条件付きで始めてみることに。
父は「おまえの好きにしろ」って感じでしたね。そして、いきなり家業に入るのではなく、まずは外国の家具ブランドを取扱う会社で修行させてもらうことから始めました。
その会社に入社する前にミラノで開催された世界的な家具イベントを訪れたのも転機でした。「海外のインテリア市場はデザインのレベルも規模も全然違う!スゴイ!」と肌身で感じ、一気に家具業界への興味が湧きました。
修行先の会社で担当したのはトラックを運転してお客様のお宅に家具をお届けする配送業務。半年間、来る日も来る日も配送。「大学時代の同級生が東京で社会人としてバリバリ活躍しているのに、俺は一体何をやっているんだろう」と腐り始めたときに気づいたんです。
「ちょっと待てよ、今後この業界に身を置こうとしているのに毎日腐って過ごしていても意味がない。見方を変えれば、人の家の中を観察できるのは貴重な機会だな」と。
毎日5~6軒、1年半で1000軒は配送したんじゃないかな。どんなにファッションにお金を使う人も、部屋にはそれほど投資していない状況を見て、日本のインテリア事情が欧米に比べて遅れているといっていた父の言葉の意味が分かりましたし、日本のインテリ市場の伸びしろを感じたんです。この時の経験は、今の自分の仕事につながる最大の財産となりました。
それに、家具って、お届けして部屋に設置した時がお客様の喜びMAXなんです(笑)。配送の仕事で、その様子を目の当たりにできた。この経験があったから辞めずに続けてこられたように思います。その後、26歳で「リビングハウス」新店の立ち上げを任され、店長として入社しました。
Q 入社してお父さんと意見が合わなかったり、社員さんとのコミュニケーションでご苦労されたりしませんでしたか?
A 父と祖父とはいろいろとあったみたいですが、私はそれほどありませんでしたね。
ただ、会議で父と意見が分かれてケンカになることもありましたけど、年々減っていきました。だんだんと私の信用も上がってきたからかな。
2011年、33歳の時に社長をバトンタッチしてからは、会長として意見はいうけど「最後に決めるのはおまえや」という感じで任せてもらっています。
入社した時に自分より社歴が長い社員さんや年上の社員さんに、社長の息子として色眼鏡でみられるのは避けて通れないと思います。ですから、自分の働きっぷりで存在感を示すしかない。全く気にしてなかったわけじゃないけれど、あんまり気にしないようにしていました。
Q 業界の中で新しいことやタブーに思われていることをやるのは勇気がいりませんでしたか?
A 社長就任後、従来通りの売り方では差別化できないし、利益率の向上に取り組まないと他店舗展開が望めないと感じて、中身の改造に取りました。セレクト商品のみのラインナップから、オリジナル商品としてルームシューズを生産販売も増やしたんです。
買い替えの頻度が少ない家具の販売だけでは、お客様もめったにお店へ足を運んではくれません。買い替え需要の多い手ごろな商品であるスリッパは、来店回数を増やす仕掛けとして一役買ってくれました。
また、家具の分割払いを業界に先駆けて始め、一度の出費が多くて買い替えることに二の足を踏んでいた層にも買い替えるきっかけを提供できるようにと思っています。
欧米人って家具を頻繁に買い替えるんです。そういう文化を日本にも根付かせるための土壌を育てたいですね。
インテリア業界は世代交代が遅くて、30代の経営者って少ないんです。50代の人でもまだ専務だったりして、古い慣習がまだまだ残っている。
そんな中、老舗家具メーカーとコラボし、福岡に「ウッドランド」をつくりました。テーブルや食器類がすべて売り物のカフェ、子供が体験できる家具作りのワークショップ、工場見学など、「買う」「作る」「学ぶ」がコンセプトの体験型インテリアショップです。一緒に組んだ社長も3代目で、感覚が近かった。
それまでメーカーが直接販売することは商流を壊してしまうので御法度でしたが、このままだと業界全体が衰退するだけとお互いに感じていたので、風穴を開けるというか、アンチテーゼを投げかけようと始めました。
先輩方からは「あほちゃうか」って言われましたが、逆にシメシメと思いましたね(笑)
Q 家業を継ごうか迷っているアトツギにメッセージをお願いします。
A 僕は業界内の会合などには必要性がない限り行かないようにしています。
ほかの業界の人と話している方が多いですね。その方が自分が持っていなかった視点や学びも得られるし、楽しいですから(笑)
また、迷っているなら僕みたいに「性に合わなかったら辞めてもいい」というような条件を付けた上で、一旦入ってみてもいいんじゃないでしょうか。
そうはいっても入ったら入ったで、一生懸命やるしかない。
起業するのと家業を継ぐのは、苦労もやりやすさも違うけど、大事なのは自分が後悔しない人生を送ること。自分の人生ですからね。
【会社情報】
株式会社リビングハウス
〒550-0015 大阪府大阪市西区南堀江2丁目4−15
リビングハウス公式サイト:http://www.livinghouse-co.com/
<取材後記>
業界同士の集まりなどには参加しますかという質問をしたときの、「必要以上に参加しないようにしてる」という回答が印象的でした。
事業承継で成長を成し遂げた会社の特徴として、業界同士の集まりや団体・組織などにはあまり参加せず、自身の携わる事業を多方面の視点から見ることを心がけているように思いました。
また、僕も就活時に迷いましたが、アトツギにとって、家業に戻るまでにどのようなキャリアを歩めばいいのかという悩みがあると思います。
リビングハウスの北村社長は、最終的に、修業で入った会社で配送業務から一般住宅に家具を運び入れる過程を経験し、世の中のインテリアの実態や部屋の間取りなどを個人で研究したからこそ、家具業界の可能性に気付けたとおっしゃっていました。
就職先での仕事を受け身で携わるのではなく、積極的に学び取る姿勢が重要だと感じました。
(取材:西形達則/写真:中山カナエ/文:三枝ゆり)
たつのり(西形 達宗)
1994年生れ。実家は自動車販売修理業。大学院にて知的財産に関して研究。CtoC マッチングプラットフォームの新規事業関西支部立ち上げに参加後、当プロジェクトに参加。年齢は24、見た目は30代。 愛用のジレットフュージョンはプログライドフレックスボールパワー。
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