2017.12.25
【インタビューvol.9】創業者は天才肌、二代目は組織力とニッチトップ戦略で勝負(ユニフォームネクスト株式会社/横井康孝氏)
飲食店をはじめとするサービス業向けユニフォーム・作業服・事務服・医療ユニフォームを、ECで販売するユニフォームネクスト株式会社。
代表取締役の横井氏の家は、代々お菓子の問屋を営んでおり、三男の父は家業を手伝ったのち、横井氏が就職活動をしている頃にユニフォームの代理店業を始める。当時から父に「一緒にやろう」と誘われていたが、スーパーの平和堂へ就職。2年半勤務後、父の会社へ入社する。
その後は、新規営業に邁進し、3年で売上げを4000万円から2億円と大幅に拡大させた。しかし、その後の業績は伸び悩み、自分が中心となって経営課題を乗り越えることを決意し、35歳で社長に就任。
後発ながらユニフォームのネット通販に挑戦し、徹底的に顧客目線にこだわったサイト作りや商品に精通したスタッフによる電話サポートで急成長を遂げ、経常利益1億円を突破。2017年7月には東京証券取引所マザーズ市場へ上場した。
Q お父さんが立ち上げた会社に入ることになったキッカケは何だったのですか?
A 私は仲間とみんなで一緒に目標に向かってやり遂げるような働き方がしたくて、小売業かなとスーパーの平和堂へ就職しました。
早く主任になって経験値を上げ、バイヤーになりたいと思っていましたが、2年目に受ける予定の主任試験は、たまたま受験資格のある先輩社員が多かったこともあり、自分の年代は次年度に見送られることになったんです。自分の力ではどうにもできないことが理由で目標を諦めないといけないことが悔しくて。そんな時に父から「うちに来れば自分がやりたいことを全部やれる」と誘われて、「やってみるか」と思ったことが家業へ入社するキッカケでした。
Q 入社されてご苦労されたことやご自身で培われた経験について教えてください。
A 父の会社は設立3年目。社員は、父と先輩1人、事務員さんの3人だけ。立ち上げたばかりのまだまだこれからの会社だったので、入社してやることは新規営業、お客様を増やすことしかありませんでした。
最初は平和堂でお世話になった仕入先に顔を出したのですが「買いたいけど、今注文している所があるからまた次の機会に……」と断られ続けて。新規開拓の難しさを感じていました。
そんな中、ある研修で、みんなで盛り上がっていくことがモチベーションを高めるためにも大切だと学び、先輩社員と「ふたりで一緒に営業してまわろうぜ」と新規のお客さんを回るように。大きな会社でも物怖じせずに回り始めてみたところ、受注がどんどん増えていきました。
それまで外注していた刺繍も、刺繍機を購入して自分たちでやり始めました。朝5時半に出社して刺繍して、9時~19時は営業、戻ってきて23時、24時くらいまで刺繍して。それから飲みに行ったり、ソフトボールチームを作ったり。本当に部活みたいでしたね(笑)。20代だったからできたのかなと思います。
Q 社長になるまでのプロセスや気持ちの変化について教えてください。
A 結婚して子どもが生まれると、今までのような朝から晩まで働き通しの生活はできないので、人を採用して6人になったのですが、人数は倍になったのに売上げは微増で。それまでの勢いはなくなり、徐々に行き詰まっていきました。
それに加え、その頃から価格競争にも陥っていて、「ここまで労力かけて、こんな薄利でやらないといけないのか。親父はなんていう業界に俺を引きずり込んだんだ」と(笑)
その一方で、父はすぐに新しい事業をやりたがるんです。ホームセンターにユニフォームの卸し始めたり、職人による洋服リフォームの店など、「おもしろい」と思ったらすぐ始めるんです。
父はいわば「事業を起ち上げる天才」。深く考えず、とりあえずやってみる。これがまた、そこそこ結果を出すんです(笑)。でも、ある程度結果がでると飽きちゃって、またほかのことをやり始める。その後を引き受けるのが私でした。
私は確実に目標にたどり着く道を探して進んでいくタイプ。もっと先を見てしっかりした会社を作りたい。このまま父のサポートだけをやってるんじゃ面白くない。一時は辞めたいと思ったのですが、会社には、自分が一緒に仕事をしたいと思って採用した若い社員がいた。彼らは私を信用してついてきてくれているんだから辞めるわけにはいかない。そう覚悟を決めました。
「早く社長にならせてくれ。俺に任せてくれ」と父に話したところ、あっさり承諾してくれました。ちょうど祖父が営んでいたお菓子の問屋業を父が継ぐことになり、私が社長に就任しました。
Q ユニフォームのネット販売に挑戦された時は、どのような想いがありましたか?
A 社長になって経営の勉強を始めた時に、、「ニッチトップをめざす」というランチェスター戦略を知り、目から鱗が落ちたというか、今までの仕事のやり方を見直し、新しい事業に挑戦しました。
やるからには会社を大きくしたいという想いは昔からありましたね。業界では、ネット販売は後発でしたから、商品を絞り込むことにしました。競合のデータをを検証した結果、飲食店ユニフォーム専門のサイトを開始。検索上位に自社サイトが表示され始め、売上げは順調に伸びました。
最初は商品を並べただけでしたが、それでは他社と何もかわらず、すぐ購入につながりません。価値を感じて購入してくれるお客様は、何が決め手だったのだろう?と観察していると、必ず電話で細かい仕様について確認されることに気付いたんです。「2900円と3900円の商品の何が違うのか」という問合せに、「洗濯したら乾きやすい、燃えにくい」など、商品の特徴や価格の差の意味を伝えることが大事だったんです。
(写真提供:ユニフォームネクスト株式会社)
それからは徹底的にお客様目線に立ったサイト構成に変えていきました。また、電話対応やそのための設備にも力を入れ、お客様をお待たせしない体制を整えたことが功を奏し、順調に伸びていきました。
Q 上場をめざすことになったきっかけや今後の目標について教えてください。
A 経常利益1億円を達成したら、もうこれでいいかなと思った時期もあったのですが、次の目標がないと会社の成長は止まってしまう。そうなったら若い社員に夢を持たせてあげられない。これじゃ面白くないし、社員も仕事を楽しめないなと。
3年前に利益を3億円に上げれば上場できると聞き、それを目標にチームで高みをめざそうと頑張ってきました。
(写真提供:ユニフォームネクスト株式会社)
うちの会社は社員がみんな、仲が良くて、気の合う仲間が集まる集合体のような場所。経営者の家族が優先されるのではなく、社員みんなの利益のためになる会社を作っていく。人数が多くなると難しいとよく言われますが、こういう雰囲気のままどこまでいけるのか、ひとつの挑戦だと思っています。
(取材・写真:中山カナエ/文:三枝ゆり)
【会社情報】
ユニフォームネクスト株式会社
〒910-0015 福井県福井市二の宮3丁目36−21
会社公式サイト:https://uniformnext.co.jp
<取材後記>
始めのころは、得意とする事業を次々に生み出す先代の能力を上手く補完する形で経営に携わってこられた横井社長。身内であり、尊敬している父だからこそ踏み込んで言いにくい話もあったのではないかなぁと思います。
それでも自分らしく会社を運営していくため、自分についてきてくれた社員とより良い会社にしていくためには、自分が代表にならなければいけないと腹をくくったお話を聞いていて、親の代の経営にとらわれることなく、自分らしく会社を作っていくことが重要に感じました。
また、ユニフォームネクスト社は、父親が始めた会社とはいえ、横井さんは入社された頃は、何もかもがこれからだった時期。ゼロに等しいところから仲間とコツコツ築き上げてきた経験があったからこそ、社員を大切にする今の風土が根付いているようにも思いました。
アトツギはすでに会社の組織や事業が出来上がっている中に入っていくことがほとんどかと思いますが、思い切って、会社の内外問わず、ゼロに近いところから何かを始める経験はとても大きな力になってくれる気がしました。
ナカヤマ(中山 佳奈江)
1986年生れ。家業はド田舎&山奥で食器と仏壇の小売業。ギリギリU34なメンバー最年長であり唯一の昭和生まれ。前職の出張が多い生活が高じて鉄道路線図や地図とにらめっこするのが趣味。誰かへおすすめできる場所や物を中心とした旅行やお出かけに関する記事の執筆・写真提供の活動をしている。好きな食べ物はアジフライとみそ汁。昭和っぽい雰囲気が漂う喫茶店、赤ちょうちんの居酒屋の佇まいになぜホッとしてしまいがち。
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