2018.03.06

【インタビューVol.15】二人の従兄弟が強みを掛け算。ニットの産地和歌山から世界をめざす自社ブランド戦略(丸和ニット株式会社/辻 雄策 氏、辻 武志 氏)

1934年に創業し、和歌山県和歌山市に本社を構える丸和ニット株式会社。「紀州ネル」と呼ばれるニットの産地で、生地メーカーとして事業を展開する。

 

辻雄策氏と辻武志氏はいとこ同士。雄策氏の父が現代表取締役社長を務め、武志氏の父が取締役専務を務めていた。国内の繊維市場に中国製などの低価格品が進出し、業績が縮小する中でそれぞれの父からの誘いを受け、2002年に雄策氏、3年後の2005年に武志氏が入社する。

 

一方で、2000年に国産の旧式の特殊な編み機を自社で試行錯誤しながら改造し、「バランサーキュラー」を10年近くの歳月を掛けて開発。縦糸を同時に編み込み、織物の様な外観と、切断しても糸がほつれにくいオンリーワンの生地が生まれた。そして、2016年、「バランサーキュラー」を使った自社ブランド「Bebrain(ビブレイン)」を立ち上げる。

 

2016年、和歌山県のわかやま地場産業ブランド力強化支援事業の補助金採択を受け、「Bebrain」の認知力アップへ注力。同年、「ジャパン・ベストニット・セレクション」において「グランプリ」と「経済産業大臣賞」を受賞。国内外の展示会へも出店。今後は米国への販路も視野に入れている。

 

辻雄策 氏(以下、雄策)、辻武志 氏(以下、武志)

 

Q どうして家業に入社されたんですか?また、入社してみていかがでしたか?

雄策:会社の売上規模も小さくなってましたし、若い世代も少ない中で社内を盛り立てて売上を上げていけるのか、かなり悩みました。

武志:前向きな雰囲気を作るには、新しいことをやるしかないと思いました。

 

雄策 私が就職した会社は紳士服関係の上場企業で、仕事にやりがいもありましたが、店長になったその先のキャリアが見えなくて。

 

そんな時、父から「ものづくりを一緒にやらないか」という誘いを受け、入社を決意しました。ですが、その後更なる不況のあおりを受けて3つあった工場を1工場に縮小し、社員のモチベーションもダウンしていく一方で。そんな中で新規開拓営業を任されていたのですが、なかなか売上が上がらず悩む日々が続いていました。

 

幸いにも歳の近い営業の先輩がいるのですが、一緒に他産地で新たな生地の取り組みを始めてくれるなど、常に前向きに新しいことに挑戦する人だったので、いろいろ相談にのってもらって。

 

私も営業員として彼に負けたくないと思い、従来の商品を売るだけではなく、売れる商品を作れるよう、自社の工場へ難しい素材や企画を持ち込むようになって。最初はいろいろと工場から反発もありましたけど、少しずつ生地のバリエーションを増やし企画力を上げていくことができたんです。

武志 前職は料理に興味があったので、飲食関連企業に勤めていましたが、父や雄策から会社の厳しい状況を聞き、「丸和ニットがこのままなくなってしまうのは嫌だな」と思い入社したんです。

 

最初の1年は仕事の流れを知るために工場で製造を経験し、その後営業を担当したんですが、「こんなにやっても儲けはこれだけしかないのか」と驚きました。情熱を注いで試行錯誤して作った生地が、本来の良さを活かしきれず不本意な使われ方をしていることもあり、営業活動を続けるなかで、単に生地を売るだけではなく自社ブランドを作りたいと思うようになりました。

 

 

Q 同族経営ならではのよかったところは何ですか?

 

雄策武志が入社してくれたことで、同じ志、同じ境遇の相手が身近にできて一気に楽しくなりました。

武志:親族だから会社の内情を身近に感じていられたし、真剣に意見をぶつけ合える。

雄策 勤めている人も年配の人が多かったなか、4歳違いで年も近い武志が入社し、ホッとした部分がありました。私は10年ほど営業をしていたのですが、社長の父がもし今倒れたら今後どうするのか常に不安に思っていたので、4年程前に経営がわかるようにと総務へ異動を社長に希望したんです。

 

そのため自分が担当していたメインの繊維商社さんや取引先を引き継げるのは武志しかいないと思っていました。

 

武志 一方でその頃私の方は、「東京で製品を作りたい」と雄策に話をしていたんですが、「総務へいくから自分の得意先を引き継いで欲しい」と頼まれて。

 

彼の異動の意図や気持ちもわかっていたので、東京に出るまで2年ほど待ちました。身内だからこそいろんな事情を配慮して待つということができたのかもしれないです。そうじゃなければ辞めていたかもしれませんね(笑)

 

 

雄策 営業の引き継ぎで武志と取引先を一緒に周りながら、武志は自分にないものを持っていると改めて気付かされ、勉強になるところが非常に多くありました。

 

武志は明るくてポジティブ。相手の懐に飛び込んでいく力がすごいんです。私は細かな対応で得意先の信用を築くのが得意なのですが、自分とのスタイルの違いが面白かったですね。

 

 

 

武志 雄策とは性格も考え方も全然違うので、仕事に関する本気のケンカもするけど、小さなころから兄弟のように育った関係もあって、すぐに元に戻れる。
会社を継続させたいという根本の思いは一緒なので、素直に意見を言い合える恵まれた環境だと思います。

 

 

Q 新しく取り組んだ自社ブランド「Bebrain」の今後のビジョンを教えてください

 

 

雄策 私が営業をしていた2008年頃、自社オリジナル編地「バランサーキュラー」がその独自性やクオリティーが大手繊維商社さんに注目され、その後徐々に売上が伸びました。

 

 

武志 その実績もあって「バランサーキュラー」を使った自社ブランドを作ろうと2016年にデザイナーも巻き込んで東京で「Bebrain」を立ち上げたんです。世界で当社しかない編み機によって作られる生地は、糸も最上級のウール、カシミヤ、シルクなども使った上質なもの。ニットでありながら織物のような安定性があり、特殊な編み方で、裁断してもほつれにくい上に、柔らかくとても軽いことが特徴です。

さらに、「ステッチシーマ」という縫い代がない縫製で一枚仕立てのような着心地のよさと軽さを「Bebrain」の製品は兼ね備えています。

 

今までは生地専門の展示会に出展していましたが、「Bebrain」ではroomsという総合展示会へ出展。それがきっかけで百貨店のバイヤーの方から期間限定のポップアップショップの出店依頼を受け、2017年の11月と12月に出店しました。

 

消費者の方と直接対面で販売することで、消費者の方が何を求めているのか生の声が聞けたのですごく勉強になって。「Bebrain」の強みや弱みがわかり、まだまだいけるという手応えを感じました。

雄策 昨年秋の日経新聞の特集に「Bebrain」が取り上げられことがあったのですが、それを見た一般消費者の方から和歌山の工場まで問合せがあって。ネット販売で展開しているのですが、「どこで買えますか」「リアル店舗はありませんか」との声を戴き、今後試着戴ける環境を作ることを検討しています。

 

自分たちが作った物に直接評価がもらえると作り手としてもやりがいがありますし、会社の未来をも作っている実感がある。プレッシャーもありますけど、もし勤めている身だったらなかなか踏み込めない部分にもどんどん挑戦できる。丸和ニットを背負い、事業を盛り立てていきたいと思っています。

 

 

武志 イタリアミラノで開催された展示会「Milano Unica2018AW」(昨年7月)に出展し、ファッション最先端の地でもよい評価をもらえてすごく嬉しかったですね。「バランサーキュラー」の生地は世界でも通用すると感じているので、現在海外向けは商社を通じてヨーロッパの有名ブランドを中心に販売展開していますが、今後は米国で製品のストーリー性を打ち出したネット販売に人気があるので、そういったサイトでも販売できないかと現在交渉中です。

 

いろんな方に協力してもらいどんどん「Bebrain」を広めていけたら、と思っています。

 

 

 


<会社情報>
丸和ニット株式会社
〒641-0004 和歌山県和歌山市和田1164
http://maruwa-knit.co.jp/


 

 

<取材後記>

終始仲の良いお二人ですが、仕事に関しては本気で意見をぶつけ合える信頼関係を感じました。

 

既存の事業や仕事を変えて推進していくには、かなりの労力と根気がいるものだと聞きます。

周囲からの反対やなかなか上手くいかない現状の中で前進していくためには、腹を割って話し合える仲間と切磋琢磨していく必要があるのだと感じました。

 

新商品を世に送り出してからもどんどん改善し、要望を取り入れて進化していく姿に、これからどんな会社やブランドづくりがなされていくのかとても楽しみにもなりました。

 

( 取材・写真:中山カナエ / 文:三枝ゆり )

ナカヤマ(中山 佳奈江)

ナカヤマ(中山 佳奈江)

1986年生れ。家業はド田舎&山奥で食器と仏壇の小売業。ギリギリU34なメンバー最年長であり唯一の昭和生まれ。前職の出張が多い生活が高じて鉄道路線図や地図とにらめっこするのが趣味。誰かへおすすめできる場所や物を中心とした旅行やお出かけに関する記事の執筆・写真提供の活動をしている。好きな食べ物はアジフライとみそ汁。昭和っぽい雰囲気が漂う喫茶店、赤ちょうちんの居酒屋の佇まいになぜホッとしてしまいがち。

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