2021.03.04
【インタビュー Vol.49】本当に美味しい生パスタを届けたい!麺一筋110余年のノウハウを活かして生まれた新事業(淡路麺業株式会社 出雲文人氏)
淡路島中北部の大阪湾を望む立地に本社兼工場がある淡路麺業株式会社。併設されている直営レストラン「PASTA FRESCA DAN-MEN(パスタフレスカダンメン)」では常時30種類以上の生パスタとそれに合うソースを組み合わせたメニューが楽しめるようになっている。
うどんやそばの製麺所として100年以上の歴史を刻んできた同社が、生パスタ事業に大きく舵を切り替えたのは2007年のこと。5代目社長の出雲文人氏の決断は功を奏し、今や大手ファミリーレストランや著名シェフのイタリアンを含む全国約3000軒の飲食店に生パスタを販売するまでに成長した。
事象承継を決断したきっかけ、先代とときにぶつかりながら生パスタに商機を見出した経緯、今後力を入れていく消費者向け商品の事業について話を聞いた。
Q. 家業は出雲さんにとってどういう存在でしたか?ご自身が家業を継ごうと決めたきっかけは?
A. 家の1階にはうどんやそばを保存する冷凍庫があって、子供の頃から家の近くにあるうどん店に手伝いに行くこともたまにありましたが、家業を継ごうという気持ちは全くありませんでした。
淡路島で生まれ育ったのですが、早く都会に出たくて、18歳の時に大阪の大学に進学しました。両親からも自分のやりたいことをやって生きていってほしいと言われていました。ところが、いざ淡路島を離れると島の人の良さや、食べ物の豊かさ、海のある風景を思い出すことが多く、将来は淡路島を全国に発信できたらという漠然とした思いを持つようになりました。大学3年生になり、就職を考える時期に両親が大阪に来て、3つ上の兄が家業を継がないという話を聞き、「だったら将来私が継ぐ」と伝えたのがきっかけですね。
大学卒業後は京都のめんつゆやスープをメインに扱う食品メーカーに就職しました。その会社ではラーメン屋さんやうどん屋さん、食品問屋さんなどを相手に営業を担当しとても勉強になりました。同時に店をプロデュースして繁盛に導くような仕事もいいなと考えるようになりました。
就職するときに数年勤めて家業に戻ると決めていたので、5年が経ったころ、両親に戻ることを伝えました。すると、「ちゃんとお給料とボーナスがもらえる会社なら続けたほうがいいのでは」と言われまして。というのも家業の経営がかなり厳しかったんです。ただ、麺づくりを担当していた社員の方がもう60歳を過ぎていたので、それを誰かが継承するためにも早く戻らないと、という気持ちがありました。
Q. 家業に戻ってどのような仕事から始められたのでしょうか。
A. まず職人さんに朝から晩までついて麺づくりを覚えるところからですね。
とはいえ、ただ麺づくりを習得するために学んだわけでありません。学んだ製法や技をマニュアル化し若い人に任せられる体制を作り、自分が早く営業の仕事に出られるようにと考えたからです。会社の経営状況は厳しかったのですが、営業に力を入れれば立て直せるだろうという自信はありました。また、何か新しいことにもチャレンジしていかないと、という思いがありました。
父は、「事業をたたもうが、新しいことをやろうがかまわない」という話をしてくれていました。ただ、本業のうどんに関しては、作り方を変えたり、売り方を変えようとしても「そんなんやってもしゃあないわ」とよく言われましたね(笑)。そうやって時にはぶつかりながら試行錯誤を繰り返していきました。
Q. なぜ生パスタだったのでしょうか。ご苦労された点はありますか?
A. 本当に美味しいパスタ麺と出会ったことがなく、だったら作ってみようと思って。それに、麺一筋でやってきたノウハウを生パスタにも活かすことができると思ったんです。
うどんやそば、ラーメン、パスタなど全国のお店を数多く食べ歩くうちに、なぜかパスタだけは心からおいしいと思えるものに出合わなかったんですよね。なぜだろうと考えるうちにパスタだけが唯一乾麺を使っていることに気づいて。それなら100年以上の麺づくりのノウハウを生かして本当においしい生パスタを作れるのではと思い試作品を作り始めました。
もちろん本を読んだりして勉強した部分もありましたが、職人気質でつくってきた弊社の生めんづくりのノウハウは、生パスタづくりでも活きる部分が多くて。ただ、プロのイタリアンシェフを納得させる味にこだわったので、何度も何度も試作を繰り返してその数は500回を超えました。
一人で試行錯誤していたので、やればやるほど煮詰まることもありました。そんな折、島内にあるホテルの料理長と知り合う機会があり、生パスタを開発していることを話すと、「それなら一度味見をさせてほしい」と言われて食べてもらうことに。そのときに、料理長ご自身でつくられた2種類の生パスタと食べ比べてもらったのですが、料理長から「さすが麺屋さんやな」と言っていただけたんです。あの言葉が自信になりました。
その後、2007年12月に初めて生パスタを神戸市のイタリアンに納品しました。
2008年1月に社長に就任してからは、生パスタを飲食店に売り込んでいく仕事も増えましたが、前職の経験で、問屋さんを通じて売るのではなく、直接売っていけばいいということも学んでいたのでそれを実践。過去の経験が役に立っていると感じています。
Q. これからどのような事業展開を考えていますか。
A. これまでは飲食店さんと二人三脚で「生パスタっておいしいでしょ」という世界を作ってきました。これからは消費者の方に直接働きかけることにも挑戦し、生パスタ文化を広げていきたいと考えています。
ただおいしい生パスタを飲食店に使ってもらえばそれでよいかと言うと、そのお店の調理の仕方、提供の仕方によっても味は変わってきます。メーカーが作って、飲食店が調理をし、最後に食べるのはお客様。そのお客様に喜んでもらえる美味しい生パスタを作りたいと思っていたので、お客様を満足させるにはどうしたらよいかという視点はとても大切にしていて。その想いを形にするためにつくったのが直営レストランでした。
直営レストランではそれぞれの生パスタに合うソースを提案する新しいスタイルでお客様に喜んでいただいています。単に生パスタを販売するだけでなくお皿の上に載せた状態や、どういう組み合わせが好評なのかなど、店での経験を次の生パスタ、メニューの商品開発に繋げています。自分たちでレストランを持つことで、どういう条件でつくればおいしくなるかがわかるようになり商品の的確な企画や繁盛店サポートとして総合的なプロデュースができるようになりました。
また、家庭向けの常温生パスタ(セミドライタイプ)を3年がかりで開発し、2019年に発売しました。消費者の方に直接生パスタの魅力を伝えるための第一弾の商品です。今はオンラインと直営レストランで販売していますが、さらに商品力に磨きをかけ、より多くの方に提供できればと考えています。
Q. 家業のしがらみの中で新しいことに踏み出せないアトツギも多くいます。アドバイスをいただけますか。
A. 立場をわきまえ一生懸命やることはもちろんですが、先代とは異なる角度から新たなチャレンジをすることでしょうか。
父は経営者であり、営業もしていましたが麺づくりの職人ではありませんでした。私は最初に麺づくりの仕事を覚えたことで、新たなチャレンジができたと思っています。今思うと、父とは違う領域でアプローチしたのが良かったのかもしれないですね。
とはいえ、どうしても先代とは意見がぶつかります。とくに赤字経営だと余計にぶつかる機会が増えるものです。それでもやろうと思うことはやり続けるしかないですね。会社がつぶれるのはほんとうにお金が底をついたときであり、それ以外ではつぶれることはないと思ってやり続けました。
守ろうとするところ、攻めようとするところで先代と意見が割れることはもちろんありますが、先代は根っこのところでは安心してやっていける世界を作ってからアトツギに渡したいと考えているはず。そこに思いをはせることが大切ではないかなと思います。
お互いがぶつからないところで役割を補完し合い伸ばしていくことが案外近道かもしれません。
(文:山口裕史、写真:中山カナエ)
<会社情報>
淡路麺業株式会社
https://www.namapasta.net/
〒656-2225 兵庫県淡路市生穂新島9-15
アトツギベンチャー編集部
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