ロボットメーカーとして立ち上げた1社目を19年の経営の後に廃業し、その後1年の間に3社(株式会社SHIN-JIGEN、株式会社Thinker、株式会社MOMOCI)を起業された藤本氏。
記念すべきReborn起業家インタビュー第一弾は、藤本氏に1社目の立ち上げから廃業するまでのご経験や、再起業のきっかけ等についてお話をお伺いしました。
■First Challenge:小学生からの夢だった「起業」と大企業発スタートアップならではの悩み
Q.1社目の事業について教えてください。
―藤本氏:
2003年に当時勤めていた大手家電メーカーの社内ベンチャープロジェクトに応募して、アクティブリンク株式会社(後に株式会社ATOUNに会社名変更)を創業しました。当初は研究向けのロボットを受託開発しつつ、合間に独自製品の企画開発を行っていたのですが、あるときから製造業向けの作業支援ロボットの開発・販売に取り組むようになり、2019年には1つの機種で年間500台の売り上げを達成しました。調査会社によると金額ベースでシェア6割を獲得するまでになったんです。でも、その後、コロナ禍の影響を受け、やむなく2022年に事業撤退を決断しました。
Q.1社目の事業でご苦労されたことはありますか?
大変だったのは、親会社とのコンセンサスの部分でしょうかね。大きな会社でしたから、窓口となる担当者の入れ替わりが多く、その都度方針や考え方が変わるということがありました。外部(VC等)からの資金調達などに関する投資の方針にしても、走りながら固めざるをえなかったりしましたし……。根底には、まず黒字を確保してから次に進もうとする従来的な大企業の文化と、機会を優先するスタートアップの文化の違いもあったのではないかと思います。
Q. 大企業発ベンチャーならではの苦悩ですね…。
創業時に戻れるなら、社内コンペには応募していなかったと思いますか?
―藤本氏:
今応募するのであれば、もっとしっかりと条件について交渉すると思います。後から思うと、株式会社ATOUNの場合は、当初は制度の方針が明確ではなく、IPOを目指したいという創業者の意志がきちんと尊重されていたわけではなかったので。VC等からの資金調達のときも、そういうところがネックにもなっていました。
Q. そもそも起業しようと思ったきっかけは何だったのですか?
―藤本氏:
既に小学生の時には「将来は起業したい」と思っていました。起業以外では博士になりたいと思っていましたね。もともとコミュニケーションがそんなに得意なほうではなかったので、起業すれば組織に縛られずに済むという気持ちが強かったのかもしれません。
でも、いちばんの理由は、小さい頃からとにかくSFが好きだったということです。未来の社会を思い描くのが楽しいからというのが、起業の原体験なのかなと思います。そもそも新卒で家電メーカーに入社したときにも、家電という生活に密着した製品を通じて、未来の社会を考えたい、実装に向けて取り組みたいと思っていましたから。
Q. 廃業するにあたって大変だったことは何ですか?
―藤本氏:
親会社との調整にはやっぱり苦労しましたね。最終的には特別清算という形で調整がつきましたので、手元にキャッシュこそ残りませんでしたが、なんとか負債などについても折り合いをつけることができました。また、従業員はすべてプロパー社員でしたから、廃業についての理解を得るのも大変でした。でも、従業員の転職等のフォローはしっかりやろうと思っていましたので、そこは特に努力しました。
Q. 廃業をする中で気をつけたこと、重要だと感じたことは?
―藤本氏:
大事なのは、すべてのステークホルダーに、納得してもらえるまで諦めずにコミュニケーションをとることです。その結果、今でも当時の株主や投資家等と繋がりを維持できていますし、当時の従業員の中には今も一緒に仕事をしている仲間がたくさんいます。
■Reborn:自問自答の中での再チャレンジ、「失敗から得たヒント」が全て詰まった3つの事業。
Q. 廃業後、再起業までの期間は何をしていたのですか?
―藤本氏:
2022年4月に廃業して5月にはすぐに再起業しました。事業構想は廃業の手続きを進めながら、です。考える時間は十分にあったので、思索に耽っていました。「自分は何者か?」と自問自答する日々でしたね。こう話すと何でもないようですが、廃業したり、再起業したりするときは、いろんな意味で追い詰められますから、外部に相談できる相手や機会がないとかなり苦しいと思います。私はなんとか経験でカバーできましたが、若い起業家の再チャレンジにはそういった環境の整備が必須になってくると思いますね。
Q.現在されている事業について教えてください。
―藤本氏:
自分を生かしていく手がかりのひとつは「人に頼まれるもの」にあると私は思っているのですが、そういう目で振り返ると、廃業前も、廃業後も、いろんな企業からゼロイチ事業についての助言を求められたり、大学や研究機関から社会実装の相談を受けたりすることが多かったんです。とすれば、私がやるべきなのは「自分が創業したときに苦労したことを、次の起業家がしなくても良いように支援すること」だと思い至り、まず株式会社SHIN-JIGENを創業しました。
この会社を私は「未来実装カンパニー」と位置づけていて、具体的には、「未来実装コンサルティング」と「未来実装ブースター」という二つの領域で事業を展開しています。「未来実装コンサルティング」は、企業やスタートアップからの新事業の相談や量産・品質規格に関する伴走支援等のコンサルティング。一方の「未来実装ブースター」は、自社で新事業を起こしたあと、外部とも連携しながら育て上げていくプロセスを支援しようとするものです。
このSHIN-JIGENの直後には、大阪大学発スタートアップとして、近接覚センサーというロボット用センサーの製造販売を行う、株式会社Thinkerを立ち上げました。まさに社会実装を実践する企業ですが、モノとの距離とモノの形を同時計測できる特殊なセンシング技術を用いて、従来のロボットハンドの弱点を克服した“手先で考える”今までにないロボットハンドの実現を目指しています。
さらに、2023年2月に立ち上げたのが株式会社MOMOCIです。この会社ではロボティクスで培った知見を少し異なる領域に向けて、認知症予防を目指したエクササイズ機器の開発やサービス開発を推進しています。
Q. なぜ再起業しようと思ったのですか?
―藤本氏:
「自分が思い浮かべた未来を実現するために、自分ができることをやりたい」というのが最も大きな理由です。廃業を進めている中で、ある上場企業から事業責任者にならないかとお誘いをいただいたりもしたのですが、そこに行けば確かにいろんな可能性を手にできるとは思いました。でも、全方位で自分がやりたいことができるわけではなくなる。それに最後までついてきてくれた従業員のことを考えると、船を下りるのは船長である自分が最後でなくてはいけない。そう思って、まずは廃業にきちんと片をつけてから、その後で自分で起業しようと決めました。
■Message:成功は時の運、同じ成功は二度と起こらない。失敗は何度でも繰り返せる。
Q. 廃業・再起業を振り返って、1社目の経験が生きていると感じることはありますか?
―藤本氏:
むしろ、事業の失敗から得た経験が生きていると感じない日はないくらいですね。同じ成功を繰り返すのは難しいですが、同じ失敗は何度でもできます。失敗を意識するから、成功の確率を上げることができるのではないかと思うんです。だから仲間にも失敗談をよくしています。成功談を話しても、「あのときは運がよかったけど、毎回そうなるわけじゃないから、同じことをすれば必ずうまくいくわけじゃないと思う」と念を押したりもします。
Q. 再起業してよかったと思いますか?
―藤本氏:
良かったかどうかは分かりませんが、経営者としては、起業を後悔しないことが大切なのではないかとは思っています。経営者自身が幸せじゃないと、従業員も幸せにならないと思うので。そのためにも、まずは自分の幸せとは何かをしっかりと考えることが大切です。
Q. 再起業を目指す方々に向けてメッセージをお願いします。
―藤本氏:
大切なのは、ものの見方を変えてみることではないかと思います。少し語弊のある言い方かもしれませんが、廃業というと、失ったことばかりに意識が向きがちですが、見方を変えれば、自分だけの特別な経験を手に入れることができたとも言えます。それも普通なら手に入れることができない経験です。その経験は必ずやみなさんを後押ししてくれるはずですし、再起業したらしたで、やっぱり得るものがたくさんあるはず。再起業に損はない、と思います。いわば「生きてるだけで丸儲け」です。ただ、誰しもひとりで「生きてる」わけではありません。再起業する上で家族との対話は大切かもしれません。