2019.12.19

【インタビューvol.36】選ばれる理由は「おせっかい品質」。家業の良さと向き合い従業員と作り上げた宅配クリーニングの逆転劇(株式会社東田ドライ 東田 伸哉氏)

現在、収益動向が厳しい状況にあるクリーニング業界。そのなかで、宅配クリーニングで急成長を遂げたのが『株式会社東田ドライ』だ。1963年に兵庫県西脇市で創業。技術力とサービス精神の高さら顧客の信頼を集めるが、時代の流れと共に支出が減少する。

 

転機となったのは、現社長・東田 伸哉氏が家業を継いだこと。宅配クリーニング『リナビス』を立ち上げ、業績がV字回復する。しかし、当初は注文が全くなく、苦しい時期が続いたという。逆転劇の背景には、創業から熟練職人が培ってきた「おせっかい品質」があった。今回、東田氏が家業を継いだ経緯や『リナビス』が誕生した舞台裏、企業文化「おせっかい」についてお話をお伺いした。

 

 

 

家業を継ぎ、経営改革に挑む

 

――東田さんが家業を継ぐに至るまでの経緯を教えてください。

もともと、家業を継ぐつもりは全くありませんでした。2代目社長の父と家業について話をしたこともなく、関わりといえば、アルバイトとして簡単な仕事を手伝ったことくらい。大学生のときはスポーツの指導者をめざしていたので、親の家業に対して興味を持っていませんでしたね。

 

でも、あるときの挫折をきっかけに、指導者をめざすことに疑問を抱くようになったんです。大学3年生になり、周りの友人が就職活動をはじめるなか、家業があるのだから実家に帰ろうと。父からは特に反対もされず、大学卒業後には覚悟のないまま家業を継ぎました。

 

 

 

――実際、家業を継いでみてどうでしたか?

入社1年目は下積みとしていろんな仕事を覚えました。転機となったのは、2013年に結婚をしたこと。家族を末長く幸せにしたい、そのためには会社の事業が好調でないといけないと考えたんです。「うちの経営状況はどうなっているんだろう?」と気になって、決算書を見たら驚きました。売上も悪く、収益もない。大赤字だったんです。経営が全く成り立っていない状況に、「これはどういうことや!」と父に詰め寄り大げんかしたんです。

 

でも、クリーニング業界は先入金システム。必要最低限の売上があれば生きていける商売で。父の職人気質な性格も重なって、家庭のなかでお金やビジネスに関する話は全くありませんでした。経営的な観点がないのも無理はないです。

 

とはいえ、誰かが会社を立て直さないといけない。父との確執は残ったままでしたが、入社2年目のとき、朝礼で従業員に向けて「これからは私が経営をやります」と宣言したんです。そのとき、会社の過去も含めて責任を背負い、自分がこの会社を運営していくと決めました。

 

 

 

自社ならではの強みは「現場」にあった

 

――経営改革を宣言したあと、どのようなことに取り組みましたか?

最初は他社の真似からはじめてみたんです。調べてみたら、宅配クリーニングをされている同業者さんがいくつかいて。2014年4月、宅配クリーニング『リナビス』をスタートさせました。

 

でも、注文はさっぱりで。Web広告に予算を投じてみるものの、ほとんど効果はなし。思い返せば当然のことで、当時は「安い・速い」を打ち出してサービスを提供していたんですね。でも、同じような売り文句を掲げる競合他社はたくさんいるし、Web広告専門の会社が背後についている。地方の小さなクリーニング屋が敵うはずがありません。

 

そこで、改めて、自分の会社のアピールポイントを探してみたんです。「自社ならではの良さってなんだろう?」「安い・速いではない、独自の強みは何だろう?」と、家業を見つめ直したとき、現在のコンセプトである「おせっかいな宅配クリーニング」に辿り着きました。

 

 

 

――家業ならではの強みを見つけたんですね。

この背景にはエピソードがあります。

 

うちの本社は自宅の隣になるのですが、営業時間外の電話に対しては家族の者が対応するんですね。ある日、お客様から「商品の受け取りを忘れた」とお電話をいだたいて。翌日に控えた始業式のために、どうしても必要なんだと。一般的には「申し訳ありませんが、営業時間内に取りに来てください」とお断りすると思うんです。

 

でも、電話に対応した母はお客様のもとに商品を届けにいったんです。お客様からは「助かりました」と感謝の言葉をいただけて。

 

母にしてみれば、「儲かるから、売上に繋がるから」ではなく、純粋に「お客様にしてあげたほうがいいから」という想いから生まれた行動だったと思います。

 

そのことがきっかけでクリーニングの現場を見てみると、同じようなことが毎日のように起こっていました。頼まれていないのに、シミ抜きをする、ボタンを修理する、裾のほつれを直す。つまり、熟練職人たちの「おせっかい」がお客様の満足につながっていたんです。創業から脈々と受け継がれてきた当社の企業文化だと知り、コンセプトに掲げました。

 

 

 

――そこから会社はどのように変わりましたか?

事業に軌道が乗り始めたのは2016年の4月です。スタート時の売上は毎月3万円ほど。そこから2年かけ、2016年3月には200万円になったんですが、その翌月、2100万円にまで大きくなりました。でも、売上と同時に作業量も10倍になってしまって(苦笑) 受注過多で対応は困難、洗濯物が溢れた倉庫を目前に唖然としました。

 

そのとき、助けてくれたのが現場のスタッフたち。

 

「クリーニングの作業は私たちに任せて」と言ってくれたんです。

 

父も先頭に立って、朝から晩まで仕事をしてくれて。このときから、お互いの間にあった確執もなくなりました。まさしく社内一丸となってその場を乗り切り、2016年度の売上は1億7000万円。その後も右肩上がりに成長し、2019年度は12億4000万円の見込みです。従業員も約30人から約140人まで増えて、優秀な人材に恵まれています。

 

 

 

「クリーニングといえばリナビス」をめざして

 

――今後、取り組んでみたいことはありますか?

現状の成長スピードは異常だと認識しています。売上や受注量が増えても、品質が追いつかなければ意味がない。安定した品質を担保できるように、まずは基礎固めに力をいれています。

 

クリーニング業は「減点型」のビジネスだと考えていて。お預かりした商品を100%の状態でお戻しするのが当たり前。汚れがとれていない、シワがついていたといったマイナス要素を減らすことが求められます。

 

また、お客様の期待を上回ってこその「おせっかい品質」。

要望に応えながら、さらに喜んでもらえる品質向上をめざすための動線や仕組みづくりに取り組んでいる真っ最中です。

 

会員数は約12万人にまで増えて、1日約3,000着の商品が全国から届けられている状況です。

 

でも、今はまだ「おせっかい」がつくりだす雰囲気で選ばれている感覚があって。だから、将来的には「クリーニングといえばリナビス」というブランドを確立させたい。そして、自分たちが取り組んできたことを、「やってきてよかった」「誇りに思えるね」と振り返られる仕事をしていきたいと思っています。

 

 

 

――最後に、これからアトツギに向けてのメッセージをお願いします。

当社では3つのクレド「苦労ではなく努力をする」「違和感を大事にする」「自分と正しく付き合う」を掲げています。僕はこれらを大事にしながら仕事をしてきました。

 

特に大事なのが3つ目の「自分と正しく付き合う」です。例えば、僕は経営的なことが得意ですが、父は職人肌でクリーニングの技術に長けている。それぞれの役割を担うことで、お互いにとってより良い結果につながります。自分に何ができて、何ができないのか。何を任せるべきで、何を全うすべきなのか。はっきりとさせることが大事です。

 

思い返せば入社2年目で経営改革を宣言したとき、僕は自分一人の力で会社をどうにかできると過信していました。自分と正しく付き合えていなかったんです。これから家業を継がれるという方は、自分自身はもちろん、現場や従業員を含めた家業全体を見つめ直してみてはいかがでしょうか。僕が「おせっかい」という魅力に気づけたように、見えてくるものがきっとあるはずです。

 

 

 

(取材:川崎康史、文:山本英貴、写真:吉川宙来)


会社情報
株式会社東田ドライ(宅配クリーニングのリナビス)
https://rinavis.com/
〒677-0052 兵庫県西脇市和田町75


 

アトツギベンチャー編集部

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