2021.02.16

【インタビューvol.44】自分の興味や得意分野 × 自社の資源で地元に貢献する事業を育てる!(株式会社にしがき 代表取締役 西垣 俊平 氏)

京丹後市を中心に、丹後、但馬エリアで24店舗のスーパーマーケット事業を展開する株式会社にしがき。

 

初代は冷菓の問屋からスタートし、スーパーマーケット事業に転換。二代目は衣料品販売や回転寿司のほか、海と山に囲まれた丹後の自然を活かしたリゾート地での天然温泉付きリゾートマンションや分譲別荘地を開発するマリントピア事業も展開した。

 

現在、三代目の西垣俊平氏は、事業で地元に貢献することをモットーに、介護事業やグランピングリゾート事業に参入。次世代の経営幹部育成にも力を入れ、グランピングリゾートの運営代行やプロデュースを行う子会社を任せるなど、成長した自分のチームで事業拡大をめざしている。

 

 

継ぐことを意識した進路選び、即戦力として飛び込んだ家業の状態はドン底

Q. 子どもの頃から家業を継ぐことを意識されていましたか?

 

 

A. 父の頃にはスーパーの多店舗展開やリゾートマンションの分譲を始めていて、社員も増えていたので、自分が継ぐことはポジティブに考えていました。

 

継ぐ意思は元々あったんですが、私が大学3回生になるころ父の病気が発覚して、早くバトンタッチしないといけない状況だったので、就職は早い段階で家業を継ぐことを意識し、会社経営そのものが学べるという理由で京都に本社があるコンサルティング会社に就職しました。

 

いろんな業種に関わることができるコンサルティング業は自分の性に合っていたと思います。担当は広域に渡っていたので、年中出張で飛び回っていましたね。

 

その後、入社5年目くらいで父の体調がいよいよ悪くなってきたこと、事業をメインで展開している地元の人口減少や競合の増加、リゾートマンションのマリントピア事業の陰りなどで経営が悪化していたこともあり、当時の財務担当から戻ってきてくれないかと頼まれて入社したのが入社までの経緯です。

 

 

Q. 経営的に厳しい状態で家業に入られていますが、どのようなことから取り組まれたのですか?

 

 

A. あまり利益率が良くなかった衣料品店と回転寿司は縮小し、マリントピア事業はコストの圧縮と新商品の開発に取りかかりました。

 

当時の財務担当役員が “にしがき三大お荷物” と呼んでいた事業が、衣料品、回転寿司、マリントピア事業で。スーパーの利益を圧迫していたんです。

 

まずは衣料品店に着手し、問屋を1社に絞り発注の仕組みを全部変え、店舗の人員を縮小。売上は下がりましたが、利益をプラスに改善することができました。回転寿司は4店舗から1店舗に縮小し、閉じた3店舗はそれぞれ、30分フィットネス「カーブス」のフランチャイズに加盟したり、居酒屋のテナントにしたり、スーパー併設店舗は売場にリフォームし、店舗をリサイクルする形で別事業に転換しました。

 

マリントピア事業は、10棟のリゾートマンションがあったのですが、9棟目から全然売れなくなっていたんです。原価割れするほど値引きをしないと売れない状況のうえ、天然温泉やプール付き施設が多く、管理費が事業の固定費では賄えなくなっていて。

 

施設併設のレストランも赤字だったのですが、ちょうどその頃、私が仕事で会員制のリゾートホテルへ訪れる機会があって。平日なのにレストランの朝食が満員の光景に出会ったんですよ。平日は埋まらないという思い込みがあったので驚かされましたね。これは何かあるぞ!と、その光景をしっかり観察してみたところ、1つの物件をたくさんの人でシェアする仕組みにすれば、レストランの稼働率も上がるだろうと気づき、早速テコ入れをして。同時に、温浴施設の運用方法の見直しも行いました。

 

1つの別荘につき、14件の会員が利用できる新しい会員権の仕組みを作ったところ、結果、会員権の販売益とレストラン収入が2割くらいアップし、収益の改善に至っています。

 

一方で、プール付きヴィラは評判がよかったのですが、人気が高いが故、予約が取りにくいという課題が発生していて。プール付きヴィラをさらに増やす必要があったのですが、会員の利用料は安く抑えているので、あまり儲けが出ない状態なんですよね。純粋に施設を増設するだけだと支出が増えてしまいますし、考えた末、一般宿泊とハイブリッドにしたヴィラを作り、会員以外も利用できるようにして。会員は会員割引で安く利用でき、予約が取りにくいお盆やGWは一般の方より早く予約できる仕組みを取り入れ、会員が優先的に利用できる状態を作ることでネガティブな意見を解消して事業を広げることに成功しています。

 

 

 

注目されている企業からヒントを得て、地元に貢献できるかどうかの判断軸をもつ

Q. 介護事業やグランピング事業に参入されたきっかけは? 新規事業に踏み出す際に社長なりのルールはありますか?

 

 

A. 新しいビジネスが出てきたらとにかくチェックしたくなる性格で。自社のリソースを使って地元に貢献できる事業であれば、新規事業として積極的に参入しています。

 

社長を継いで2年目の時、地域の高齢化を受けて介護事業に参入しました。これも地域の需要が大きいと感じての参入だったのですが、丹後・但馬地方でデイサービスセンターの運営を開始し、その後グループホーム、ショートステイ、サービス付き高齢者向け住宅など、複数の業態にサービスを広げ、神戸や大阪にも進出しています。現在は15施設を運営し、多くの方にご利用いただくまでになりました。

 

グランピングの方は、2015年に大手リゾート運営会社がグランピング施設の開業をスタートしたことを見かけ、「これは面白そうだ、自社のリソースを活かして運営できそう」という感じで、自分の興味関心が高い分野での事業展開になりました。すぐに国内で唯一グランピングのテントを取り扱っていた事業者に問合せをしてテントのことを聞いたりして、当社でも2016年からグランピングの実験を試みながら参入していったのが経緯です。

まず、コットン生地のテントはすぐにカビが生えるのでずっと野外で設営することには向いてないのですが、スイスのホテルで耐久性の高い素材でできたドームテントを利用した事例を見つけ、そのテントを真っ先に輸入し、グランピングリゾート事業を本格的に開始するに至りました。メディアにも結構注目され、順調に集客を伸ばすことができ、現在グランピング施設は11拠点展開しています。

 

事業展開のヒントを得る先としては、企業のIR情報は敏感にチェックしているかもしれませんね。収益力の高い会社や急激に業績が上がった会社、自分が興味のある業界の会社の決算説明会の資料はよく読んでいます。注目されている企業からヒントを得ることは多いです。

 

新規事業に踏み出す場合は、その事業を当社が展開することで地元に貢献できるかどうかを大切にしています。宿泊事業は観光客が周辺の土産物店や飲食店を利用することで地域への貢献につながりますし、ヴィラなどの物件を購入いただければ、固定資産税の税収で自治体に貢献できるので。

 

 

 

自分の興味や得意分野と自社の資源で生かせることの掛け算が強み!

Q. 継がれてから順調のように見えますが、ご苦労されたことはありましたか?

 

 

A. 事業を広げても上手くいかないケースもありました。やっぱり自分の得意な分野や興味を強く持てる分野を深掘りしていくのが一番いいなという思いに至りましたね。

 

回転寿司を1店舗に縮小し、価格帯を変更したら売上が伸びた経験があったんですが、そこで「これはいけるかも!」と、ちょっと調子にのってしまいまして(苦笑)。それがきっかけで大阪に8店舗展開したんです。最初はよかったのですが、隣に魚の卸売業が運営する回転寿司チェーンが出店してきて、価格面ではどうにも優位になれず、結局うまくいかず8店舗とも閉めた経験がありました。

 

その時に自社の強みを活かしたビジネスをしないと難しいと実感したんです。当社の中でリゾート系事業は競合も少ないビジネスモデルであり、私自身が宿泊業の空間を作ることや商品開発が好きで、まだ世の中的に新しいことに挑戦することにリスクを感じないことから、この強みを伸ばすことにしました。

 

当社の宿泊業はWebの集客力が強いのですが、ネット広告の運用ノウハウを蓄積し、Webサイトを内製化していて。また、テレビCMによる効果的な広告ができるようにもなりました。こうした運営ノウハウを元に、子会社ではグランピングのプロデュースや運営代行なども行っています。

 

組織づくりはというと、自分のチームと言える組織づくりには15年かかりましたが、私の経営感覚やリズム、やりたい方向性、スピード感などの波長が合うメンバーが揃って、自分のチームがようやくできたと感じています。

 

私が入社当時の経営幹部はとても協力的だったのですが、皆さん年上でこれまでの仕組みや思考を変えることが難しいシーンもありました。現在、当社の経営幹部や子会社の社長は、私が入社後に採用した人たちなんですが、私より10歳くらい若い方たちを採用し、長く一緒に働いてきたメンバーです。スピード感をもって新しいことにチャレンジしたり、目標を達成していける雰囲気になり、頼もしい存在です。

 

今後は関東に10ヵ所、グランピングリゾートの展開を計画しています。宿泊業に付随する不動産の仲介事業、ホテルの再生事業、M&Aにも事業を広げていくなど、次世代の経営幹部と一緒に上場をめざしてひとつひとつを着実に達成していきたいですね。

 

 

Q. 最後にアトツギに向けてアドバイスをお願いします。

 

 

A.  家業にとらわれず、自分が熱中できる新しい事業に取り組むことができれば、そこそこ上手くいくんじゃないかな。

 

アトツギが経営者として能力を磨くためには、若いうちに家業とは違う新規事業を経験することが後に大きな財産になると思います。それも、会社からポンとお金を出してもらうのではなく、自らしっかり事業計画を練って、銀行に事業の将来性や手堅さなどを説明し説得した上で融資を受けたり、人材も自分で採用するという体験をしておく意味で、主体的に新規事業に取り組むことが大事だと思っています。経営者のファイナンス能力は、実際に経験して伸ばしていくのが一番の近道ですね。

 

それと、新規事業を考える時は、自分の好きなこと、得意なこととリンクした事業にすること。熱中できることって、そのことを自然と考え続けられるし、調べたり学ぶことにも積極的になれるじゃないですか。そういう意味で「好きなこと・得意なこと」が大事だと自分の経験を通じても実感しています。

 

中小規模の事業承継は、自分で指揮をとって組織を動かす大変さがあるので、心身ともにキツいと思うので、若いうちにぜひチャレンジしてください。

 

 

 

(文:三枝ゆり)


<会社情報>
株式会社にしがき
http://www.super-nishigaki.jp/company/
〒629-2501 京都府京丹後市大宮町口大野88番地


 

アトツギベンチャー編集部

アトツギベンチャー編集部

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