2021.02.04
【インタビューvol.42】兄は「経営」、弟は「ものづくり」。明確な役割分担でもっと強い会社に(株式会社加平 田所 茂和 氏)
「おもしろおかしくモノづくり」。キャッチーなモットーを掲げているのは、大阪府泉佐野市に本社を構える株式会社加平だ。
株式会社加平は創業以来、東洋クロス株式会社の下請け業務で、遮光カーテンや医療用シーツ等の産業資材をメインに加工を進めてきた。大きな転機があったのは2005年。独自技術が認められ、「車のシート材料に採用したい」とオファーを受ける。以来、車輌用合成皮革の製造が事業の中心となった。
現社長である田所茂和氏は、ちょうど会社の転機となった2005年に家業に入り、父親の後を継いだ2代目だ。弟の哲治氏が先に家業に入り、製造・開発部門で奮闘していた姿を見て、「自分は会社の体制づくりや資金繰りを担おう」と決意。採用や財務改善を率いてきた。兄弟で明確に役割を分けて、それぞれの得意領域で改善を重ねてきたからこそ、事業成長を遂げられているのだ。
これまでのキャリアや転機、どう考え企業改革のために何を行ったのか、そして今後のビジョンについて、田所茂和氏に伺った。
最初のキャリアは日本マクドナルド。人の採用・管理やITの活用法を学ぶ
Q. 田所さんは三人兄弟の長男ですが、もともと家業を継ぐつもりだったんですか?
A. 継ぐつもりはありませんでしたね。父親は忙しくて全然家にいなかったし、どんな仕事をしているのかを聞く機会も無かったんで興味を持つ機会がなくて。
大学卒業後は、バイト経験もあった日本マクドナルドに入社しました。1999年入社だったんですが、当時のマクドナルドは飛ぶ鳥を落とす勢いの成長企業で。社員4人で月商3,000万を挙げる店舗に配属となり、オペレーションから人の採用や管理までさまざまな業務に携わって、めちゃくちゃ働きましたね。大変でしたが、目標と目標達成へのプランを自分で考える「オブジェクティブアクションプラン」というものがあったり、“30分間で売れたハンバーガーの個数と平均単価”がすぐに確認できるシステムが取り入れられていたりと、成長企業を支える仕組みを学ぶことができました。
Q. そこから、どんなきっかけで家業に入ることになったんですか?
A. 右肩上がりだったマクドナルドも業績が振るわなくなってしまっていて、社長の交代によって、今まで裁量権を持って自由に仕事ができていた社風も変わってしまい、「ここでずっと頑張るのはきついかもしれない」と思ったんです。
退職して別のことをしようと考えていたとき、ちょうど家業では新しい工場が立ち上がるタイミングで、先に家業に入っていた弟が主要メンバーとして技術開発に携わっていました。そのような時期も重なって、家業に入ったのが2005年です。
「100%無用材ポリウレタン加工 マイクロポーラス技術」を開発していたんですが、合皮には湿式皮革と乾式皮革というものがあって、湿式皮革は風合いがソフトで皮のジャケットなどに使われるものであり、当時高値で売れていました。
しかし、生産過程で出る廃液が環境保全面の課題にもなっていたので、父親が「乾式の手法で湿式の風合いを出す独自技術を開発するぞ」と宣言して、その開発を弟に手伝わせていたんです。寝る時間も休みも惜しんで独自技術を開発した結果、「車のシート材料に採用したい」と声を掛けていただいて、現在の商売の中心である車輌用合成皮革の製造を始めることになりました。
弟がものづくりをするなら、自分は経営を担う。採用・資金繰り改善などに注力
Q. 家業に入って、田所さんはどんなことに取り組んできましたか。
A. 弟が製造・開発部門を引っ張ってくれていたので、自分は会社の体制づくりや資金繰りの部分を担おうと決めて、いろいろな業務に取り組みました。
マクドナルドで、採用や人の管理の部分、仕組み化・機械化の重要性も学んでいたので、この役割分担はちょうど適していたと思います。
まずは、採用に力を入れました。人が足りなかったので、毎日のように面接をしながら5年掛けて社員を45名から125名まで増やしたんです。おかげで勢いある若手社員を多く採用できたのですが、結果的に、「面白いものをお客様に提供するためには無茶も厭わない」メンバーも多くなり、「加平の常識は、世間の非常識」状態になってしまいました。
そこで、「これだけではいけない」からと、樹脂メーカーの退職者を再雇用して彼らの意見も聞きながら製造・開発を進める体制にして。また、一気に人が増えてきたときこそ秩序が必要になるので、就業規則や研修体制を構築して、社員の管理・育成体制も整えていきました。
Q. 立ちはだかった壁や苦労して乗り越えたことがあれば、教えてください。
A. 資金繰りに苦労した時期もありましたね。2015年に大量の受注があった際、製造するためにも毎月の運転資金が億単位で必要だったのですが、キャッシュが足りなくなってしまったことがあって。
父親はいいものを作ることに熱心な一方、ファイナンスには無頓着だったこともあって、その辺が下手くそで。父の資金繰りの様子を横で見ながら、「なんで、そんなことになるんやろう。あらかじめ銀行から借りといたらよかったのに」と思っていたんです。そんな姿を見てたせいか、「父親が得意じゃないお金の勉強を僕がせなあかん」と思って、いろんなセミナーに足を運んだり、相談しやすい税理士さんを新たに見つけたりして変えていきました。
それから、資金繰りの状態は安定してきて。今は父親からものづくりを継承してくれている弟が、「工程改善をしたい」「新しい機械を入れたい」と要望してきた際に、お金を段取りするのが僕の役割だと思っています。
Q. 資金繰り以外に改善したことはありますか?
A. 不良品を最小化するための仕組みづくりですね。「不良撲滅委員会」を作って7人のメンバーに主導してもらいました。
2015年に大量の受注があったとき、過去最高の売上を挙げたにもかかわらず、実は赤字だったんです。それは、不良品も多く発生していたからで、不良品を早期に把握して、すぐに改善に移す仕組みがなかったことも原因で。投入に対して出来た良品の率のことを指す「収率」が当時は80%台だったんです。これを改善しないことには赤字が続くので、弟の呼びかけのもと「不良撲滅委員会」を作って7人のメンバーに主導してもらいました。
彼らが改善を重ねてくれた結果、1年で収率が90%になり、現在は93%まで上がっています。システムを導入して、日付指定をすれば指定期間の収率が一瞬でグラフ表示されて分析できるような仕組みも導入しているのですが、こうしたシステム化を行っている企業は業界で珍しいのではないかと思っています。
いい技術やアイデアを活かすためにも、ファイナンスを学ぶことは必要
Q. 今後は、どんなことに取り組んでみたいですか?
A. BtoCの事業展開をしていきたいと考えています。
合皮は名刺入れや時計のベルト部分に使われているなど身近にあるんですが、「これが合皮だ!」ということはあまり知られていないので、合皮をもっと知ってもらうための取り組みをしていきたいんです。他には、オーダーテストがすぐにできるラボを構えたいですね。うちは営業がいないんですが、いつも父親のところに「社長!こんなことしたいんやけど」っていろんな方が相談に来て、出来るものはすぐに作って渡してお客さんに検討してもらう、という段取りだったんです。そのレスポンスの早さが信頼に繋がってたので、そういったやり取りを継承して、スピーディーに実験ができるようなラボを構えられたらと思っています。
父親は会議でも、誰も思い付かないようなことを急に話し出すような人で、いつも驚かされていました。自動車業界に参入できたのも、実績は無かったけれど「やる」と決めて先に設備投資をしたからこそだったので。正直、父親の天性の勘にはかなわないな、と思うことが多いですが、父親のような直感は持っていないからこそ、スピーディーに正しい決断ができるように、仕組みを作ったりシステム化できることは進めていっている最中です。
Q. 最後に、アトツギに向けてのメッセージをお願いします。
A. 経営とビジョンの実現の両輪を回していく必要があると感じています。中でも資金繰りの部分は必ず付きまといますし、どんなにいい技術やアイデアがあっても「お金が無いとできない」というシーンは出てくると思うので、ファイナンスはしっかり勉強した方がいいと、個人の経験からは痛感しました。
キャッシュがあれば会社は潰れませんし、潰れない安心感があればいろんなことに挑戦しやすいですから。また、僕は親から引き継いだ事業メインで10年間社長を務めて、やっと一人前になるように感じています。別事業で収益を挙げることを勧めてくれる方やM&Aの話をいただくこともありますが、うちは今は「合皮を売るためにどうするか」「製品を安全に届けるためにどうするか」にしか注意を向けていません。無事10年間社長を務めて結果を残すことができたら、そこからはまた新しいチャレンジがあるかもしれないです。
(文:倉本祐美加、写真:中山カナエ)
<会社情報>
株式会社加平
https://www.t-kahei.co.jp/
大阪府泉佐野市日根野4165番地
アトツギベンチャー編集部
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