2020.03.06
【インタビュー】アトツギだからできること。若手後継者がしがらみや固定観念を超えて挑む、家業の新しいステージ。
近畿経済産業局では、3年前から34歳未満の若手後継者(アトツギ)を対象に、ベンチャー企業のように新しいことに挑戦する「ベンチャー型事業承継」を志す若手経営者を育てるため、ワークショップやイベントを行ってきた。
講座やイベントに参加したアトツギのなかには、新たなチャレンジを始めた者も。彼らが「ベンチャー型事業承継」の世界と出会って、どのような成長や変化が生まれているのだろうか。そして、家業存続の使命を背負いながらも、自分の経験やノウハウを活かし、どのようなことにチャレンジしているのか。
今回、近畿経済産業局主催の「アトツギベンチャー養成講座(※1.)」に参加した、上田 誠一郎(写真・左)さんとサカイ タカヒロさん(写真・右)の2名にお話をお聞きした。
※1.「アトツギベンチャー養成講座」
https://next-innovation.go.jp/renovator/presspost/eventrp20171111/
https://next-innovation.go.jp/renovator/presspost/atotsugikouza2018/
家業と向き合い、志を同じくする仲間と出会う
—— 本日は宜しくお願いします。まずは自己紹介も兼ねて、お二人の家業についてお聞かせください。
上田:上田 誠一郎です。大学卒業後、高級婦人靴ブランドで5年間、販売や店舗運営を経験したあと、家業である『株式会社インターナショナルシューズ』に入社しました。1954年に祖父が創業してから約半世紀、高級婦人靴ブランドのOEMを手掛けています。
サカイ:サカイ タカヒロです。僕は西陣織の帯生地を織る家の長男として生まれました。大学卒業後に入社した大阪の商社で6年間勤めたあと、2016年に家業に戻りました。
—— ありがとうございます。最初にお聞きしたいのが、近畿経済産業局主催のベンチャー型事業承継に関する事業についてです。上田さんは、2017年に『第1期 アトツギベンチャー養成講座』に参加されています。実際に参加してみて、どのようなことを得られましたか。
上田:いろんな方々とお話するなかで家業の強みを再発見できましたし、自分の気持ちを棚卸しすることができました。講師の方や、ベンチャー型事承継のモデルとなる先輩経営者の方から「本当に自分がしたいことはなに?」「自分が人生をかけてやりたいことは?」と問いかけられ、考えに考え抜いた先で、家業を通じて実現したい目標ができたんです。家業と自分自身をじっくりと見つめ直す機会になりました。
—— サカイさんも、『第2期 ベンチャー型事業承継講座』に参加されていますが、振り返ってみていかがでしょうか。
サカイ:「ベンチャー型事業承継」という考え方との最初の出会いは、実は2018年の『アトツギピッチ(※2.)』で、同じく新規事業に取り組もうとするメンバーに出会い、京都信用金庫賞も受賞したことが、次に向けての大きなステップになりました。その後、『第2期 アトツギベンチャー養成講座』に参加したのですが、受講者同士で切磋琢磨しながら、アイデアをゴリゴリと練り上げる感覚でしたね。「どうしたらいいと思う?」と相談し合うだけでなく、お互いに「負けてられない!」と高いモチベーションで臨むことができました。
※2.「アトツギピッチ」
2018年に初めて開催された、大阪府事業承継ネットワーク主催の大阪府ベンチャー型事業承継プロジェクトのアトツギに特化したピッチコンテスト。
https://www.innovation-osaka.jp/ja/events/atotugipitch2018s/
—— 上田さんとサカイさんの出会いは、2018年に開催された『アトツギピッチ』とお聞きしています。その後、お二人でコラボレーション事業に取り組まれていますが、どのような経緯があったのでしょうか。
上田:高島屋大阪店で開催されたイベント『TAKASHIMAYA NIPPONものがたり』がきっかけです。担当のバイヤーさんから「新しい素材と靴でおもしろいいことがでいないか」と相談されたとき、サカイさんにお声がけしたんです。サカイさんの会社にも伺って、西陣織の生地柄や色彩を選びながら、イベントに出品する女性向けのミュールとバレエシューズを製作しました。
サカイ:当時、『circu(サーキュ)』というブランドで女性向けのアイテムづくりに挑戦していました。いくつか製品候補があったのですが、そのひとつが水にも摩擦にも強い西陣織生地を使ったパンプスです。西陣織×婦人靴の製造に着手していたこと、その過程で上田さんにご相談していたこともあって、高島屋のお話をいただきました。
—— 実際、お二人で取り組んでみてどうでしたか。
サカイ:納期が短い案件だったのですが、とても円滑に仕事ができましたね。ベンチャー型事業承継の事業を通じてお互いのことを知っていて、得意とする分野を把握していましたし、家業で自分らしく挑戦したい!というベンチャー型事業承継のマインドも持ち合わせていたため価値観にズレがなくて。無駄な擦り合わせや余計な遠慮をすることもなかったので、スピーディーに進めることができました。
上田:信頼関係が築かれた上で取り組めましたよね。講座やイベントに参加していなければ、こうしてサカイさんと出会うことも、西陣織を使った婦人靴をつくることもなかったなと改めて思います。アトツギ同士でコラボ事業に取り組むきっかけが生まれて嬉しかったです。
家業×若手後継者が仕掛ける挑戦
—— 続いて、家業を活かして挑戦している新しい事業についてお聞きします。上田さんはどのようなことに取り組まれていますか。
上田:新しいスニーカーブランド『brightway(ブライトウェイ)』を立ち上げました。可能な限り日本国内で生産された良質な素材を使い、トップブランドの婦人靴を作り続けてきた職人たちの技術を活かし、無駄を削ぎ落としたシンプルなデザインを追求する。お客様に長く愛用していただけるものづくりをめざしています。
—— スニーカーブランド『brightway』の立ち上げには、どのような背景があるのでしょうか。
上田:ここ最近、大小の問屋が軒並み姿を消し、業界全体が縮小してきています。このような変化が著しいなかで、今までのようにOEMを請け負い、大量生産をするだけでは生き残れないと感じていました。長年、靴作りに取り組んできた企業として、何をしていきたいのか、何を伝えていきたいのか。考え抜いた先で辿り着いたのが、自社ブランドの製品をお客様に直接お届けすること。なかでも、トレンドに左右されにくいスニーカーを選びました。
—— 続いて、サカイさんが挑戦されている事業についてお聞かせください。
サカイ:前職に勤めながら、2014年のときにブランドグループ『RE:NISTA(リニスタ)』を立ち上げました。西陣織を和装の帯だけでなく、ホテルの客室にあるベッドボードやベッドスロー、クッションなど、いろんな形に活かした商品をつくっています。いくつかブランドがあるのですが、2020年1月に始めたのがBtoC向けブランドの『k-cs(ケイクス)』です。インテリア雑貨やアパレル用品などに西陣織の生地を使っていて、お菓子のケーキをモチーフにした色合いをシリーズ展開しています。
—— BtoC向けブランド『k-cs』の立ち上げにはどのような背景があるのでしょうか。
サカイ:西陣織をつくる職人の後継者不足や賃金低下といった問題に対して、いち早く対応したいと考えました。もともと『RE:NISTA』ではBtoB向けビジネスを中心に展開していたのですが、商品が完成したり、それによるブランドの理念が浸透するまでにどうしても時間がかかってしまう。業界の衰退に追いつけないことが課題でした。そこで、お客様に商品を直接お届けしやすい、BtoC向けビジネスとして『k-cs』を立ち上げたんです。まずは商品自体を好きになってもらうために、あえて西陣織を推さない工夫も凝らしています。
境界線を超えて、アトツギが拓く新たな道
—— 今後、どのような事業展開をお考えでしょうか。
上田:まずは『brightway』を推し進めていきます。具体的には、自社ECサイトでの商品販売、価値観に共感してくれる販売店さんとのお取引、そして、2020年3月にはクラウドファンディングにも挑戦する予定です。また、サカイさんとタッグを組んだように、異なる素材を活かしたコラボ商品に挑戦して、日本のものづくり産業の素晴らしさを伝えていきたいですね。さらに、その先では、祖父が『インターナショナルシューズ』の社名に込めた「自分たちの作った靴で世界中の人を笑顔にしたい」という想いを叶えるため、海外展開も進めていきたいと考えています。
サカイ:これからも『RE:NISTA』を通じて西陣織の生地をいろんな形で活かしていきたいですし、僕も将来的には海外展開をめざしたいですね。新しく立ち上げた『k-cs』については、お客様の意見を反映させた商品開発に取り組んでいます。ブランドのファンが集まるコミュニティでは定期的に交流会を開催していて、会員の意見を交えながら新しい商品を考えているんです。実際、商品化が進んでいるものもあります。また、販売金額の一部を職人さんに還元する仕組みも構築中です。西陣織を通じてお客様に彩豊かな生活を届け、職人の技術を次の世代に繋げていきたいですね。
—— 最後に、ベンチャー型事業承継に関する事業との出会いを振り返り、改めて感じていることをお聞かせください。
サカイ:家業を活かした事業を立ち上げた当初、ずっとひとりぼっちで取り組んでいる感覚があったんです。そのなかで、後継者としての楽しいことや、辛いことを理解してくれる仲間と出会えたのが本当に嬉しくて。ベンチャー型事業承継のスローガンを初めてみたときには、共感のあまり涙が出そうになりました。
上田:僕も同じ気持ちです。いろんな人たちと出会い、身の回りの環境が変わり、考え方や行動も変わって、人生を変えるきっかけをもらいました。アトツギとして家業を立て直すことはもちろんですが、アトツギベンチャーの講座やイベントから巣立ったひとりとして、活躍している姿を見せていくことが、応援してくれた人たちへの恩返しになると思っています。
(文/写真:山本英貴)
<会社情報>
株式会社インターナショナルシューズ
http://www.inter-shoes.com/
〒556-0014 大阪市浪速区大国1-11-20
アトツギベンチャー編集部
おすすめ記事
-
2022.02.04
【インタビューvol.54】「違和感」は新規事業の原動力、時代の風を読んで取り組むフードロ
壷井氏は32歳で家業を継いで以降、社内外で「ただ課題解決のためだけ
-
2022.01.26
【インタビューvol.53】ワールドワイドに広がれこんにゃく文化! 「SHAPE MEN」
Q. 「SHAPE MEN」って?? 一般的な「こんにゃく」とは違い、身体にじっ
-
2022.01.24
【インタビュー Vol.52】国内初、紙パックナチュラルウォーターで業界を革新(株式会社ハ
市販されている「水」といえば、容器は「ペットボトル」。それが当たり前だった日本で
-
2022.01.17
【インタビュー Vol.51】20歳で掲げた夢は「世界に必要とされる企業にする」。菓子卸売
全国に売店192店舗、食堂36店舗を展開している心幸ホールディング
-
2022.01.13
【インタビュー Vol.50】社員の1/3は虫博士。「個人が自立したフラットなチーム」と「
片山氏は35歳で家業を継いで以降、殺虫剤用の噴霧器メーカーから防虫資材商社へと業
-
2021.03.05
【アトツギピッチ優勝者インタビュー】 “船場”からテクノロジーの会社ができたらおもしろい!
2021年1月23日に開催されたアトツギピッチで優勝した株式会社志成販売の戦正典
-
2021.03.04
【インタビュー Vol.49】本当に美味しい生パスタを届けたい!麺一筋110余年のノウハウ
淡路島中北部の大阪湾を望む立地に本社兼工場がある淡路麺業株式会社。併設されている
-
2021.02.26
【インタビュー Vol.48】社長業は未来をつくる仕事。人を育てることを軸におき、家業の製
昭和11年にゴム材料商社として創業し、高度経済成長期を経て、ゴム製品を製造・販売
-
2021.02.24
【インタビュー Vol.47】農業×I Tで見えない技術資産を未来へつなぐ。(有限会社フク
「実は、家業に入ったきっかけはあまり前向きな理由ではなくて・・・」と苦笑しながら
-
2021.02.23
【インタビューvol.46】特殊曲面印刷の技術を導入する体制構築や、人材育成に注力。ライセ
福井県の特産品といえる眼鏡を販売する会社として創業した株式会社秀峰。ギフト事業参