2017.10.20
【イベントレポート】ベンチャー型事業承継成功のカギは、独創的な事業革新
【2017.10.4 トークセッション講演録】
アトツギよ、前提を変えろ!ベンチャー型事業承継のススメ
” 町工場3代目の独自ブランド世界展開 / マスオさん社長の「人財育成で多角化戦略」”
【登壇者】
株式会社 DG TAKANO 代表取締役
高野 雅彰 氏
「働きたいベンチャー企業ランキング第1位」獲得。
「2020年 未来を創るベンチャー企業10社」「日本全国の成長ベンチャー100社」にも選出されるDG TAKANOを、独創的な事業展開で牽引する3代目。
ベンチャー経験を経て、東大阪で業務用ガスコックを製造する家業の町工場に戻ったのは20代。
先代によって培われた高度な技術力と、自身のビジネスモデル構築のノウハウを組み合わせ、自社開発の節水ノズルで世界市場に挑戦する。
株式会社 KMユナイテッド CEO
株式会社竹延 代表取締役社長
竹延 幸雄 氏
サラリーマン時代に大手メーカー(人事部)と大手広告代理店に勤務。
華やかな業界から転身した先は、妻の実家の老舗塗装店。建設不況のあおりを受け、業績も悪化の一途をたどるなか、義父との二人三脚での再建を決意して入社。
職人不足など山積みする課題のなかにビジネスチャンスを見いだして、新会社「KMユナイテッド」を設立。現在、職人育成、建設資材の開発、塗料のBtoC販売など、人財育成をベースにした多角化で新領域を開拓する。
*****
2017年10月4日、関西における「ベンチャー型事業承継」の機運を醸成するため、近畿経済産業局がキックオフイベントを開催。
関西大学梅田キャンパスKANDAI Me RISEで行われたトークセッションでは、家業のフィールドでユニークな事業を展開する株式会社DG TAKANOの高野雅彰社長と株式会社KMユナイテッドの竹延幸雄社長が、ベンチャー型事業承継を実現するまでの道のりや苦労、ベンチャー型事業承継が家業にもたらす可能性などについて語った。
継ぐつもりのなかった家業をダイナミックに革新
「家業の危機をずっと感じて育ったから、継ぐつもりは全くなかった」という高野氏は、10代から起業の夢をもち、大学卒業後、IT業界で3年間サラリーマンを経験。独立後の最初の仕事が、節水製品をネット販売してほしいという依頼だった。
町工場の環境で育ったこともあり、製造原価はすぐわかった。「なぜこんなレベルの低い商品が高値で売れるんだ?」
市場を調べてみたところ、環境系の中小企業ばかりでものづくり系の企業がない。
「実家の工場と技術を使えば1番になれる」と、空いていた機械を使わせてもらって試行錯誤を繰り返し、ついに水の使用量を90%節約できる節水ノズルを開発。数年後には、家業の主力事業になった。
大手メーカー人事部と大手広告代理店で経験を積んだ竹延氏もまた、継ぐつもりのなかった妻の実家の老舗塗装店でマスオさん社長に。
入社時は、業績の悪化、職人不足、技術継承など課題が山積みだった。誰も賛同しないなか人財育成に携わる新会社を立ち上げ、社内の更衣室でスタート。女性や外国人が働きやすい環境づくり、ベテラン職人による仕事を特化した短期間の人財育成、正社員採用などの改革で、親会社の売上げ倍増に寄与するまでになる。
「1回笑うために9回は失敗しているが、ライバルが何もしていない中で一歩ずつ進むことが、かなりのアドバンテージになったと思う」。
長年培われた家業の技術力×新しいビジネスモデル
両者は家業の強みをどう分析し、何を持ち込んだのだろうか。
先代である高野氏の父は、ものづくりへのこだわりが強い職人で、どんな形でも加工できる機械設備と加工ノウハウが強み。でも営業力がないからと、高野氏は世界の意見を聞くためにドイツの展示会に節水ノズルを出展。帰国後、「“超”モノづくり部品大賞」でグランプリを受賞し、一気に知名度が上がった。
「たとえ先代の武器が時代にマッチしていなくても、その素材を活かす可能性はある」と考える高野氏は、現在、世界の課題と日本のスーパー技術を結びつけ、開発からビジネスモデルまでデザインする事業を推進。「天才外国人」「大企業出身の若手」「日本のシニア層が教える技術」の組み合わせで、世の中にない新商品の開発に挑んでいる。
竹延氏が入社した約250名の職人を擁する老舗塗装店では、職人の質や意識が低下しており、職人の高齢化や人材不足による技術継承の危機もあった。
若手を育成するためにいまを逃してはならないが、昔ながらの人事制度では若手の雇用が難しく、職人育成の時間も足りない。そこで、新たな枠組みで新たな人材を発掘・育成する会社を設立。優秀なベテラン職人が特化した作業技術を継承する方法で、職人育成期間を10年から3年に短縮。託児施設の設置や、軽くて運びやすい建材の開発で女性職人を支援。外国人の100%正社員雇用も実現した。
「ダイバーシティを活用したイノベーションは、人財不足の中小企業にぴったり。うちのノウハウを体系的にまとめることで、他社へのコンサルティング事業も始めている」と竹延氏は話す。
ベンチャー型事業承継を実現するために必要な力とは
「目の前にある課題をどうやって解決するか」を繰り返してきたという高野氏は、開発・販売・採用の壁を短期間でクリアできたのはデザイン思考のおかげだと言う。「課題解決力を身につければ、どんな職業でも前進できる。方法を知っていても実践しない人が多く、自己分析ができないから、自分に行動力がないことに気づかない」。そこで、既存のビジネスモデルを革新する発想力を鍛える「Brain Camp」というトレーニングセミナーを開講して、後進の指導にもあたっている。
「どんなに良い本を読んだり、素晴らしい講演を聴いても、明日やるかやらないかで大きな違いが生まれる」というのは竹延氏。毎日仕事のことを考えることが苦にならないのは、「家業なら、明日出勤したらこれをやってみよう!と、自分が考えたことをすぐに実践できる。何かしら実行することで少しずつ会社が変わっていくことを体感すると、さらに学ぼう、さらに前進しようという気になる」と家業に携わるメリットを語った。
キャプテンとして、みんなが乗りたい船をつくっていく
「家業に対する否定的な思いをどうクリアしたのか」という参加者からの質問に、高野氏は、「自分がものづくりに携わって初めて家業がもつ高い技術力に気づき、父への尊敬の念が増した」。竹延氏は、「結果を出すしかない。30歳で入社した時は『ど素人が』と言われ、悔しい思いもしたが、新しい目で技術継承や育成の仕組みを再構築したことで、売上げは拡大、自信が生まれた」と答えた。
また、「新しいことを始めたいが、他社の技術やノウハウを引っ張ってきたほうが早いのではないかと迷っている」という相談には、「どの課題にチャレンジするのか、長期的に見て何がベストなのか、自分がやりたいことは何なのかを見極めて選択してほしい」と高野氏が助言。
「経営者として、従業員の生活を守る責任や継ぐことに対してどう思ったか」という質問に竹延氏は、「赤字経営の現実を前に、自分の信じることを実行するしかなかった。いまはキャプテンとして、みんなが乗りたいと思う船をつくっていきたい」と結んだ。
( 文:花谷知子 / 写真:中山カナエ )
アトツギベンチャー編集部
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