2017.10.26
【インタビュー vol.3】塗装職人育成のための新会社、人財育成支援ビジネスに発展(KMユナイテッド/竹延 幸雄氏)
妻の実家である創業67年の老舗塗装店「株式会社竹延」を継いだ竹延氏。もともとはメーカーでの人事を経て、大手広告代理店に勤めるサラリーマンだった。しかし、竹延が建設不況の煽りを受けて業績悪化の一途をたどる中、義父との二人三脚での再建を決意して入社する。
職人不足など山積みする課題の中にビジネスチャンスを見いだし、新会社「KMユナイテッド」を設立。女性や永住外国人など多様な職人を育成するダイバーシティへ取り組み、建設資材の開発、塗料のBtoC販売、技術の伝承を目的とした「技ログ」など、人材育成をベースにした多角化で新領域への挑戦を続けている。2018年には「KMユナイテッドベトナム」を立ち上げ、海外にも技術の伝承を展開していく予定だ。
Q まずは奥様の実家である塗装店を継ぐことにした心の変化を教えてください。
A 私の祖父が畳の製造業をしており、親戚にも事業をしている人がいたので、職人や事業を興すことをカッコイイと思っている部分もあったんです。
ですが、自分はやりたい仕事に就いていましたし、妻にはお兄さんがいたので、継ぐ予定はありませんでした。
しかし、お兄さんが若くして亡くなられて。社員150人を抱える大手老舗塗装店でしたが、後継者問題は後回しになっていました。そして、建築不況もあり業績も悪化していた時に、創業以来起こらなかった大きな事故が起こってしまい、義父は廃業を考えるようになって。義父が仏壇の前でブツブツ言っている姿を見たら「一緒にやりましょう」と言っていました。結果的に、今はお互いにハッピーなので継いで良かったと思っています。
Q 親会社とは別に「KMユナイテッド」を立ち上げた背景やきっかけを教えてください。
A この会社は、更衣室でスタートした事業だったんです。
塗装業界が人材不足難というのは、継ぐ前から感じていました。採用なくしては経営の軸がないようなもの。私は竹延という会社でこの先40年食べていかないといけないと思うと、採用と人材育成は最重要課題だと感じていて。
ただ、義父には「これまでのやり方で営業を強化すれば食べていける」と反対された一方で、ベンチャーがやりたいという気持ちもあり、なんとか説得して、僕と元職人の営業マン一人、経理未経験の事務職の女性一人のたった3人で狭い更衣室でのスタートでした。竹延という大きな組織に新しい部署を作るのは難しかったので新会社という形に。
これまで塗装職人の育成は、先輩を見て覚えるのがスタンダード。10年以上という長い時間をかけて職人へ育っていくのですが、塗装作業の全体を3分割して、同一工程を繰り返し鍛錬し、その工程についてエキスパートに育てていきました。1/3マスターしたら、次の1/3という具合に技術を習得していきます。
このやり方はメーカーで人事をしていた時の、大幅なリストラを行った経験にヒントを得ました。製造ラインの仕事をABCでランク付けし、ロボット等で機械化できる仕事、合理化できる仕事、外注化する仕事と振り分けて、経費削減や人件費削減を考える。塗装業の仕事もひとつずつ分解して身につけることで、生産性を高められると気づいたんです。
Q ご苦労されたことや印象的なエピソードを教えてください。
A 最初の頃はなかなか求人への応募がなかった。
3Kと言われる業界、やはりイメージもよくなかったみたいで。経験者だけでなく、男性がなかなか採用できない一方で、未経験者の女性や永住外国人の採用を進めたんです。採用してみると彼女たちは頑張りがすごくて。やる気もあるし、根性もある。一方で、技は一流の職人から学んでいるので、現場にいくと作業が早くて技術も高く、周りの職人もだんだんと認めてくれるようになっていきました。
とはいえ、やる気はあるけれど教えてもらえる事が前提となり待ちの姿勢になるなど、様々な問題も起こり始めます。
そこで、現場だけで教える限界が来ていると感じ、職人の育成システムを作ろうとプレハブで作った「職人育成塾」を始めました。すると、面白いことに未経験者だけではなく中堅クラスの職人や一流にまではなれていない職人が「もっと技術を学べる所があるなら参加したい」と勉強しにきてくれるようになった。これが以前から在籍していた職人全体の技術の底上げにつながりました。
一方で、業界から私たちを見る目は厳しいこともあります。大きな現場で新たな塗装技術に取り組んだのですが、うまく仕上げられていなかった所があり、業界の重鎮の方々から厳しい指摘を受けたことも。
自分のことを批判されても苦にはなりませんが、職人について言われることは悔しかったですね。その件を担当職人に伝え、「彼らが技術を身につけた10年、20年後とかじゃなく2カ月後にはなんとか見返せるよう頼むよ」というと、それから仕事が終わってからも家のベランダでその塗装を繰り返し練習して、短期間で上達してくれたんです。
それによって、短期間でも高度な技術を身に着け、完成度の高いものを仕上げることができると示せたのは嬉しかったです。
Q 会社が存続していくために何が必要と考えますか?
A KMユナイテッドはもともとなかった会社だったので、やれるとこまでやり尽くそうと思っていますが、存続のために成長していくには、同じ目的を目指し、協力し合える異業種の仲間は大切だと感じています。
同じように高い技術はもっているけど、人材育成や採用で困っている塗装会社は全国にたくさんあります。
しかし、これからKMユナイテッドのノウハウを活かし「育成や採用面の課題を解決する事業を展開していこう」と考えたとき、自分たちだけでは限界があると感じ、四国の人材育成している会社社長を会長に、大学の教授、MBA取得者など異業種の人に事業に参画してもらう事に。今後日本だけでなく、世界へも広く展開していきたいと思っています。
建設業は縦割りですが、我々が横串を刺しまくって、「いい技術はいい」と付加価値を付けて選ばれる会社になっていかなければと思います。そうすることで、これまでのゼネコンありきでの体制ではなく、その先の真の顧客に対して「自分の信じるものを提供する、得していただく、要求を満たす」ことで「お客様に喜んでいただく」という志を貫き、この業界を塗り替えていきたいです。
【会社情報】
株式会社 KMユナイテッド
京都市下京区五条堺町角塩釜町363番地ウエダ本社北ビル4F
KMユナイテッド公式サイト:http://www.paintnavi.co.jp/kmunited/
<取材後記>
「老舗企業の新規事業がたった3人で狭い更衣室でのスタートだった」「新しい部署ではなく、新会社としてやることになった」ということを聞いて、ああ、やっぱり長く続いてきた会社の中で、新しいことをやろうとすることはかなり大変なんだと思いました。
けれども、それ自体を嘆かずに、マスオさんという立場でありながらも、事業で結果を出し、更に志高く突き進む竹延さん。今やその視座は日本、そして、世界へと広がっていることに感動しました。
やはりアトツギこそ志を高く、優秀な人間である必要があり、そういう人が増えれば社会は絶対に良くなると思いました。
(取材:川端佑典/写真:中山カナエ/文:三枝ゆり)
まつり(川端 佑典)
1994年生れ。家業は厨房設備屋。家業の古臭い経営や精神論が苦手で、ITベンチャーやデザインコンサルなどキラキラな職場で勤務していたが、「ベンチャー型事業承継」伝道師の山野さんに出会い、自身の家業に大きな可能性や魅力があることに気づく。現在、継ぐかどうか絶賛迷い中。世界/日本一周を経験。京都の山奥で瞑想してみたり、和歌山の熊野で田舎暮らしをしてみたりと、楽しいことやってます。
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