2017.11.21
【インタビューvol.6】家業は宝ものが詰まった箱。西陣織×IoTでウェアラブルコンピュータ市場に参入(ミツフジ株式会社/三寺歩氏)
職人である祖父が西陣帯工場創業してから62年を迎えるミツフジ株式会社。
父や叔父の代には、西陣織の技術をベースに、和布団の装飾に使われるラッセルレース、銀メッキ繊維と、時代に先駆けた商材を手がけていく。
一方、現・代表取締役社長の三寺氏は、子どもの頃から家業を継ぐ予定はなく、大学在学中に海外向けネット書店を立ち上げ、海外在住の日本人および日本人コミュニティーに対するBtoCビジネスを展開。卒業後は松下電器産業(現・パナソニック)や外資系システム会社シスコシステムズでIT事業に携わってきた。
しかし、2014年に経営危機に陥った家業を立て直すためにミツフジ株式会社へ入社し、代表取締役社長に就任。家業の経営資源を徹底的に洗い直し、織物工場から始まったノウハウと、自身が異業種のサラリーマン時代に培った経験や人脈を掛け合わせることで、ウェアラブルコンピュータ市場に参入した。
宇宙飛行士の下着素材として採用されるなど、高い導電性が評価され、多くの大手メーカーや研究所に導入されている。
現在、銀メッキ繊維の開発力とIoT技術を武器に、着るだけで心拍数など健康状態がわかる衣類の製造工場を福島県に建設中だ。
Q 家業に戻ることになったキッカケは何ですか?
A サラリーマンとして東京勤めだったのですが、地元京都に帰ってくる度に地域の力が落ちていっていると感じていました。そんな中、2008年に祖父が亡くなり、工場や土地をすべて売り払ったんです。
そして家業の売上げがついには2000万円以下になって。2012年にこのままお金がショートしたら倒産するという状況になり、自分が見捨ててしまったら潰れてしまう状況で。眠れないくらい悩みましたが、これまで祖父母や親が自分にかけてくれたお金を計算して、「同額を稼いで返したら辞める」と考えて入社しました。
当時の社員は私と従兄弟ともう一人だけ。掘っ建て小屋のような工場からのスタートでした。銀メッキ繊維というエッジの効いた商品があるのに、利益は出せていませんでした。そこで商品の価値を評価してくれて利益が得られるお客様だけに絞り、利益が出ない取引を思いきって辞め、銀メッキ繊維に特化して一点突破する戦略に変えました。
Q 同族経営だからこその「ややこしさ」はどのように乗り越えられたのですか?
A 戦略を変えてから少しずつですが利益が出始めて。そうすると前の体制に戻そうとするんです(笑)
これはアカンと思い、親族に集まってもらい、「前のやり方にするか、若い世代に経営を託すのか、これからどうするか」を改めて話し合いました。結果として、一度駄目になった会社なのだから、口は出さないということで同意を得たんです。
親が持っているノウハウは莫大な資産なので、親のプライドを傷つけず、敬意をもって使い切ることも後継者の役目だと思います。
Q ウェラブルコンピュータ市場に参入された背景や展望について教えてください。
A 銀メッキ繊維ではオンリーワンの技術を持っているからこそ、様々な業種の大手メーカーにご相談を頂いています。
それに、繊維業はエンドユーザーのニーズに近い所にいるのが強み。エンドユーザーがメリットを感じる商品を開発するからこそ、ウェラブル市場で勝負できると確信しました。
私はサラリーマン時代に法人営業を担当していたのですが、氷河期世代の主な仕事は新規開拓。当時はものすごくキツいと思ってましたけど(笑)
ゼロベースからものを売る力が鍛えられたので、今では「コツコツ営業に行けばなんとかなる」と思える。懸命に頑張っておいてよかったと思います。
それと、ITのノウハウを繊維産業と組み合わせるすることで、業績を拡大させることができました。繊維業界は素材産業の部分があるのですが、残存者利益で利益率が高い分野もあります。斜陽産業と言われている分野も、やり方次第で可能性のある市場だと感じていて。
ウェアラブル製品で必要となるパーツは日本の企業ですべて調達できます。IoT分野は、VHSのように、世界規格を日本で作ることも十分できるはず。当社はアプリケーションの特許は、都度出願していますが、独占的なことはせず、競合他社とも協業していけるように進めています。
多くの会社が手軽にウェアラブル市場に参入できることこそが、市場を大きく育てることになると考えています。
Q 家業を継ぐかどうか考えているアトツギ予備軍へメッセージをお願いします。
A これまで生きてきて与えてもらったことが多くあると思うんです。家業の商売が生み出した利益で育ててもらったこととか、家族の縁やつながりとか、そういったものを大事にできると新しい価値が生まれる気がします。
家業が傾いている時に「世の中こんなことでいいのか」と思っていたことが、今の会社の事業計画に投影されていると思います。
サラリーマンで働いていても同じかなと思います。「こんなことでいいのか」「こんな状態でいいのか」「必ずやってやる」とか。何をしていようとも、自分に問いかけ続けることのような気がします。事業承継って、そういった宝物の詰まっている箱を受け継ぐことだと思うんです。
今は産業が融合する時代で若い頃に身につけた経験や情報がどんな産業にも活かされると思います。決めつけないで一度自分の家の商売を見つめ直してみたら、チャンスが眠っているかもしれません。
【会社情報】
ミツフジ株式会社
京都府相楽郡精華町光台1丁目7 けいはんなプラザ ラボ棟13階
公式サイト: https://www.mitsufuji.co.jp/
<取材後記>
西陣織の帯に始まり、和布団の装飾のレース、そして今はウェアラブルデバイスの導電性銀メッキ繊維の会社へと変貌を遂げてきたミツフジ株式会社。
実は前職がIT系だったこともあり、生体情報を読み取ることができる被服系のウェアラブルデバイスがあることは知っていたのですが、まさかその中心的な役割を担う製品を作っている会社が、最近立ち上げられたスタートアップなどではなく、長く続く会社の事業だったとは思いもしませんでした。
普段何気なく取り扱っている自社の製品やサービスも、使う場所や使う人、注目する機能の視点を少しずらしてみると思いもよらないような可能性が見えてくると気づかされた取材でした。
当たり前にある家業の資産がイケてないな、と見限る前に、新しい一面を見つけられないかもう少し粘ってみるのもアリだなと思いました。
(取材・写真:中山カナエ/文:三枝ゆり)
ナカヤマ(中山 佳奈江)
1986年生れ。家業はド田舎&山奥で食器と仏壇の小売業。ギリギリU34なメンバー最年長であり唯一の昭和生まれ。前職の出張が多い生活が高じて鉄道路線図や地図とにらめっこするのが趣味。誰かへおすすめできる場所や物を中心とした旅行やお出かけに関する記事の執筆・写真提供の活動をしている。好きな食べ物はアジフライとみそ汁。昭和っぽい雰囲気が漂う喫茶店、赤ちょうちんの居酒屋の佇まいになぜホッとしてしまいがち。
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