2021.02.23
【インタビューvol.46】特殊曲面印刷の技術を導入する体制構築や、人材育成に注力。ライセンス事業で世界をめざす(株式会社秀峰 村岡右己氏)
福井県の特産品といえる眼鏡を販売する会社として創業した株式会社秀峰。ギフト事業参入をきっかけに、それまでは難しかった球面、曲面への特殊印刷技術の開発に着手し、直接対象物の定位置に高精度に印刷を行う特殊曲面印刷技術の開発に成功。眼鏡フレームに図案を印刷することから始め、携帯電話、自動車資材、住宅設備などの曲面印刷を行うまでになった。
秀峰の2代目 村岡右己氏は、オンリーワンの技術であるからこそ抱えるリスクを意識し、技術はあるが場当たり的な仕事になりがちな組織の弱点を克服するため、体制の改革や人材育成に取り組んでいる。
現在は150以上の特許を取得し、ライセンス事業を展開。試行錯誤を経て骨太になったライセンス事業を武器に、海外進出をめざす。
Q. 子どもの頃から継ぐことを意識していましたか?
A. 父は仕事を家に持ち込まなかったので、どんな会社なのかよく知りませんでしたし、家業を継ぐことは頭になかったんです。
大学では機械工学を学び、大学院でも研究を続けたのですが、家業のことはほとんど意識していませんでした。
父から人手が足らないから手伝ってほしいとのことで、長期休暇のタイミングで友人と一緒に眼鏡を磨くアルバイトをしたときに「こうやって会社をやっているんだな」と初めて認識するくらいで。
福井では長男が家に戻ってくるというのが一般的で、家業を継ぐかどうかは別として、地元に戻るため福井にある総合繊維メーカーに研究職で就職したんです。
Q. 意識がなかったところから結果家業に入ることになっていますが、きっかけは何だったのでしょうか?
A. 家業なら、技術も営業も、現場の仕事から経営までいろいろなことに挑戦できて面白そうだなって思って。ちょうどその頃、新工場ができ事業拡大のタイミングでいろいろ挑戦できそうだと感じたことも後押しになりました。
就職した会社は繊維技術を発展させ、インクジェットプリンタで布地に直接加工を行うシステムや車両資材、エレクトロニクスなど幅広い事業がありました。数年研究職を経験したのですが、ある分野の業務を深く突き詰めていく仕事も面白いけど、営業や財務、品質管理など家業ならいろいろなことに挑戦できる方がもっと面白そうだなと自然に気持ちが傾いていました。
父とは特に家業を継ぐという話はしていなかったのですが、新社屋や工場ができたこともあってタイミングがよかったのもありますね。
入社後は開発で特殊曲面印刷技術のベースを学び、生産本部でお客さまの所へ営業に行きながら試作を受けたり、量産の段取りを行っていました。
Q. フランチャイズ事業に取り組まれた後、特殊曲面印刷のライセンス事業に力を入れているようですが、これらを始められた背景を教えてください。
A. フランチャイズ展開は、「秀峰にしかできない」というリスクを解消し、生産量や納期など状況の変化にも柔軟かつ継続的に対応できる体制づくりの一環で始めました。技術力はあるけれど、場当たり的な仕事の進め方に危機感があったんです。
取引先は眼鏡のフレーム加工から始まり、携帯電話、自動車と広がっていましたが、特殊曲面印刷はオンリーワンの技術ゆえに、一見メリットにも思えるこの強みが「弊社が対応できなくなると生産できなくなる」という点でかえってリスクとなり、一度受注してもなかなか次に続かない状況で。
さらに、2016年に国産車の30部品を月2000台分の大型受注をいただいたのですが、塗装するパーツの納期が遅れ、段取りが崩れてしまい、70~100人の派遣さんを集めても人手が足りない状況になったことがあって。納期が遅れて工場のラインを止める訳にはいきませんから、全国からなんとか人材をかき集め、一時的に福井の工場で働いてもらうためにマンスリーマンションを契約するなど奔走しました。膨大な経費がかかり辛い状況でしたが、背に腹はかえられませんしね。そんなことが続いている状況を冷静に振り返って、会社全体がこのようなやり方では将来が見えないと危機感を覚えたんです。
そこで、弊社の機械や加工技術と同等のことができる状態の会社をフランチャイズ事業として群馬、静岡、韓国、台湾に展開しました。大型の受注があっても自社以外に分散することで、リスクヘッジできるようにするためです。
現在は、フランチャイズ事業だとスケールしづらいこともあって、機械や加工のライセンス事業へ転換し、大手企業の内製化のサポートを行っています。
Q. 新しい取り組みを進める中でご苦労もあったのではないですか?
A. 一時期ライセンス事業のみに注力したのですが、ライセンス事業だと加工はせず機械だけを作っている状態。使ってもらう方の目線は大切にしないとダメなんだと実感しました。
当社で加工も行っているからこそ印刷の効率を上げるにはどうすればいいか、メンテナンス費用を抑えるには、大型化するにはどうすればいいかなどの視点が得られますし、それを常日頃考えてアイデアをいかすことができるんです。
ライセンス事業はインドネシアやタイを皮切りに、日系企業が進出している東南アジアを中心に海外進出していく予定です。その後、中国、欧州、米国にも展開したいと考えています。未知の部分に怖さはありますが、51%は前向きに、49%は慎重に、少しだけポジティブに捉えて進んでいきたいと思っていて。
ただ、今は時世的に海外への渡航も難しく、コロナ前はライセンス事業でヨーロッパへ進出を考えていましたが一旦中断し、海外に工場がある国内メーカーと連携することで着実に話を進めています。あとは、フランチャイズ展開時代の取引先の会社も弊社同様にトップが代替わりをしているタイミングでもあるので、会社を継いだ方々との連携も積極的に行っています。
Q. 会社運営の上で、ご自身で工夫されてることなどあれば教えてください。
A. 社員の皆が同じ方向を向くようにしたいと思い、社員に直接これからの方向性を伝えるように意識してますね。
会長はあまり現場に出ずに幹部に指示を出して組織を運営するタイプでしたが、私は朝礼を毎日行って社員と接する機会を増やし、会社の状況やめざす方向性など直接伝えるようにしています。
会社としての夢であるライセンス事業の海外進出のほか、国産自動車のホイルの受注が決まっていて、テスト等で加工まで時間が掛かりますが、2024年~2025年頃には量産開始の予定があるなど、前もって社長から状況を伝えることが大事だと思っていて。
ほかにも研究に力を入れたので、耐光性の技術が向上しましたし、皆がやりがいをもって仕事に取り組んでほしいので、ISOやIATF10949などの品質の勉強会も始めました。
特に採用や人材育成の難しさは大型受注の時に身に沁みているのでこれから注力していきたい点でもあります。臨時的にたくさんの人に働きに来てもらっても、きちんと指導できないとパフォーマンスが落ちてしまいます。これから働き手もさらに少なくなってくる時代ですし、長く続けていくには社員教育にも力を入れないといけません。量産の仕事が減り業績に影響している部分もありますが、社内の環境や体制を整えることができたと思っています。
また、ここ最近の話ですが、このコロナ禍ではなかなか営業にも行けなくなったので、営業に行く代わりに毎月特殊曲面印刷の試作をアルバムにして取引先へお送りすることも始めました。「毎月試作を送ってくるおもしろい会社があるな」と思ってもらえたらいいなと思ってやっているんですが、これが結構反応が良くて、お客様に自社のできることを伝えるツールにもなっているし、お客様のニーズを引き出すいい役割を担ってくれている気がしています。
Q. 最後にアトツギに向けてメッセージをお願いします。
A. 何か動かなければ、何も変わりません。一人で悶々とずっと考えるよりも、同じ悩みをもつ若手経営者や先輩経営者に話を聞いてもらえるだけでも気持ちが変わります。
まず何をしたらいいのか悩んでいるのであれば、まずは小さなことでもいいので身近なところで動いてみる。普段接していない人の話を聞いてみる。ちょっとした行動がいいきっかけになることもあります。例えば青年会議所や商工会議所などの集まりに参加してみることで、ブレイクスルーのきっかけが掴めるかもしれません。どんなご縁があるかわからないので、まずは一歩踏み出すことをお勧めしたいですね。
(文:三枝ゆり、写真:中山カナエ)
<会社情報>
株式会社秀峰
http://www.shu-hou.co.jp/
〒919-0327 福井県福井市大土呂町2号5-5
アトツギベンチャー編集部
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