2018.03.12

【インタビューVol.16】斜陽産業で新たな挑戦!彦根仏壇の伝統工芸技術を再定義して世界へ(井上仏壇/株式会社井上 井上 昌一氏)

彦根仏壇の製造販売を行う井上仏壇。1901年に初代が錺(かざり)金具師として創業し、仏壇づくりに取り組み117年を迎える。

 

代表の井上昌一氏は大学卒業後入社し、仏壇の需要が低迷する中、伝統技術の伝承を目指した新商品ブランド「chanto(シャント)」を開発。2009年に株式会社井上を設立し、デザイナーと職人がコラボレーションしたカップや雑貨等の製造販売を始めた。

さらに伝統技術を継承する後継者育成や、海外マーケットを視野に入れた富裕層をターゲットにしたより価格帯の高い商品開発・販路開拓に取り組む。

 

Q 家業に入社したきっかけを教えてください。

A  私が子どもの頃は祖父が中心に井上仏壇を経営しており、父や母から「継いでほしい」と言われたことはありませんでしたが、祖父からはよく言われていて。でも、子どもの頃から将来を決められることに葛藤や抵抗がありました。

 

中学生の頃、進路相談で担任の先生にそのことを話したら「自分の可能性や選択肢を広げるために高校や大学で学んでから決めてもいいのでは」と言われて、「それもそうやな」と思って。

 

大学では経済を学んでいたのですが、就職を考えた頃、祖父が亡くなり、このまま商売を続けるのは大変だろうとわかっていたので「自分が継ごう」と覚悟を決め、大学卒業後に入社しました。

 

Q 仏壇とは違う新商品「chanto」を開発するきっかけや取り組みを教えてください。

A 日本人のライフスタイルの変化や核家族化によって主力商品だった大型国産仏壇の需要は、右肩下がりに減少してしまって。近年では市場の4分の3を海外製が占めています。

 

一方で彦根仏壇は木地、宮殿、彫刻、漆塗、金箔押、錺金具、蒔絵の7工程を経て造られているのですが、需要が低迷し伝統技術を伝承することも難しくなってきていたこともあり、多様な仏壇製造技術を活かして何かできないかとモヤモヤとしていました。

 

そんなとき、商工会議所のセミナーで講師だったコンサルタントの先生にその話をしたところ、「この技術で世界に通用する商品を作ったらおもしろい」とアドバイスを受け、海外展開できるような商品ができればと考えるようになったんです。

 

さらにその1年後、コンサルタントの方から「日本貿易振興機構(JETRO)主催のニューヨークの展示会(ICFF)に出展しませんか」とお声を掛けていただいて。

その時点では商品は何もありませんでしたが、「一度チャレンジしよう」と出展を決意。4カ月と準備期間は短かったですが、花器や壁掛け等を作り参加しました。

その時に一緒に参加していた方々から、どのように商品開発をしているのか、どんな支援や補助金を受けているのかなどを聞くことができ、それまで何から手を着けていいかわからない状態でしたが、じっくりものづくりに取り組めるやり方を学べたことが大きな収穫でしたね。

 

当時は資金的に潤沢な状況ではありませんでしたが、ここで手を打っておかないと体力的にも厳しくなりそうと思い、「しが新商品応援ファンド」助成金や滋賀県の「市場化ステージ補助金」の支援を受けて商品開発を始めたんです。

 

理想は仏壇の7つの技術すべての工程を入れた商品でしたが、まずは小さい日用品からスタートしました。自分たちの発想だけではどうしてもデザイン力に欠けてしまうので、デザイナーとコラボすることにしたんです。この方は2009年のICFFでご一緒したご縁で、思い切って声をかけました。デザイン面だけでなく販路の相談もできる方だったので心強かったですね。

また、うちの仏壇を作っている漆職人がカラフルな漆の研究をしていた人だったので、ポップな印象の製品が完成しました。

 

そして、見本市や展示会に出展したところ、「仏壇屋が作る日用品」としてメディアに取り上げていただけるように。同時に仏壇のPRにもなり、自社の広報宣伝の一翼を担ってくれたのはとてもよかったですね。

 

Q 新たな取り組みについても教えてください。

A 職人のインターンシップや海外の富裕層の市場調査や見学ツアーを企画し、新たな商品開発を目指しています。

仏壇の需要低迷と職人の高齢化や後継者不在問題で今後彦根だけで仏壇を作れなくなるのではという危機感がつのるばかりで。これから先、高齢の職人が教えるとしたら一人前になるためには10年近くかかります。

「早く手を打たないと、このままだとダメだ」と思い、2010年頃から数年ですが京都伝統工芸大学校の学生さんを対象に、夏休みに彦根仏壇の職人の所でインターンシップを行ったんです。

 

学生さんと接して、みんな職人になりたいけれど収入にならないからできない状況を実感。仕事さえあれば後継者はできるとわかったので、後は市場を作ることが自分の仕事だと気づかされました。

そして、新たに7つの職人技術が活かせる商品を開発するため、伝統的工芸品産業支援補助金の支援を受け、市場調査を始めました。ちょうどインバウンドが増加している時期でターゲットをシンガポールの富裕層に絞り、工房見学・体験ツアーを企画し、観光を使った商品開発を行うことにしたんです。

 

日本政府観光局(JNTO)のシンガポール事務所へ訪れ、現地の旅行代理店を紹介してもらい、富裕層に向けた工房見学・体験コースを誘致。体験者にはアンケートに答えてもらったり、富裕層のお宅へリサーチに訪れたりした中で、高級な機械式腕時計を入れておくケース「ワインダー」に着目しました。

 

数百万、数千万円の腕時計を入れる収納ケースなら数十万、数百万円してもおかしくない。そういう世界があることがわかったんです。

 

それに、日本人が仏壇だと認識してしまう色形や装飾でも、海外の人にとっては、斬新なデザインとして評価してもらえます。日本人向けでは固定概念があるので難しいかもしれませんが、海外の人は金が好きなので、華やかな金の装飾は特に高く評価される。今後は販路を開拓して、販売に力を入れていきたいと思っています。

 

Q 後を継ごうか迷っているアトツギへメッセージをお願いします

A 悩むより一歩踏み出してみると、やりたいことが出てきて面白くなると思います。

 

学生時代から自分でビジネスをしたいという気持ちがありました。私の場合はゼロイチの起業ではないけれど、家業の技術や資産があったので、それを使って新しいことにチャレンジできたと思っていて。使命を感じ自分らしいビジネスをしてこられたと思います。

 

一度やりだしたら、やりたいことがどんどん見えてくるし、情報も同時に入ってきます

 

とにかく一歩踏み出して始めることが肝心。やってみてわかることもあるので、悩んでいるならまずは動いた方がいいと思います。

 


<会社概要>


井上仏壇/株式会社井上
〒522-0031 滋賀県彦根市芹中町50
http://www.inouebutudan.com/


 

(取材・写真:中山カナエ/文:三枝ゆり)

ナカヤマ(中山 佳奈江)

ナカヤマ(中山 佳奈江)

1986年生れ。家業はド田舎&山奥で食器と仏壇の小売業。ギリギリU34なメンバー最年長であり唯一の昭和生まれ。前職の出張が多い生活が高じて鉄道路線図や地図とにらめっこするのが趣味。誰かへおすすめできる場所や物を中心とした旅行やお出かけに関する記事の執筆・写真提供の活動をしている。好きな食べ物はアジフライとみそ汁。昭和っぽい雰囲気が漂う喫茶店、赤ちょうちんの居酒屋の佇まいになぜホッとしてしまいがち。

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