2018.10.01

【インタビューVol.21】老舗の価値を高めながら、ベンチャーとして挑戦を。まっすぐな気持ちと熱意があれば、何でもできる(株式会社伊と忠・スーベニール株式会社/伊藤忠弘氏)

創業は明治28(1895)年。きもの文化の中心地・京都で、呉服用の履物やかばんの小売業を営んできた株式会社伊と忠は現在、4代目の伊藤忠弘氏が代表を務めている。

 

大学を出て一度は出版社に就職した伊藤氏が家業へ戻ったのは2000年のこと。当時の伊と忠は財務的に厳しい状況だったが、伊藤氏が業務を一つひとつ見直していくことで経営は安定。100年以上にわたって築いてきたブランド力は今も健在で、四条本店を含めた店舗は全国に14を数えている。

 

一方で、同じく伊藤氏が率いている会社がある。2012年に伊と忠より独立したスーベニール株式会社だ。『カランコロン京都』をはじめ、伊藤氏が新しく立ち上げてきた雑貨事業を譲渡される形で設立され、こちらは6年で急激に成長してきた。

 

『ぽっちり』『にっぽんCHA CHA CHA』など、自社で抱えるブランド数は現在16。社内に何人ものデザイナーを抱え、新たな観光おみやげ市場を開拓するベンチャー企業だ。

 

 

Q. もともと伊と忠を継がれる前提で就職されたんですか?

 

A. いえ、父からは継がなくていいと言われていたので、単純に興味のある分野の楽しそうな会社に就職しました(笑)

 

家業を継ぐ話は、父とは一切してきませんでしたし、就職をするときになって初めて「継ぐことは考えなくていい」と言われて。履物では名が通っているとは聞いてましたけど、小さい、ニッチな仕事でしたから。

出版社を選んだのは、学生時代に音楽やファッションのイベントをやっていて、その延長で仕事になったら面白いなと。ほんと軽い感じで、あまり深く考えてませんでした(笑)でもぼんやりとですけど、いつか戻るのかなとも思ってましたね。

 

就職して3年くらい経つと、組織の中で「こうした方がいいのに」と思ってもすぐ動けない状況にだんだんストレスを感じていました。以前から、「ずっと企業勤めをするよりは、いつか自分で……」と考えていたこともあり、いつしか小さくても自分で事業ができる環境があるなら挑戦してみたいと思い始めていて。25歳のとき、父に頼みこんで伊と忠へ戻ったんです。

 

 

Q. 家業に戻って、心が折れそうになったことはありませんでしたか?

 

A. 特に最初の3年は、かなり辛かったです。父とも激しくぶつかりました。一方で、伊と忠の持つブランドの強さも実感しましたね。


写真提供:スーベニール株式会社

 

戻った当時、会社の状況はかなり厳しかったです。「どうにかしないと」というプレッシャーの中、経費から販路まで一つずつ問題を見つけて改善しないといけませんでした。父はある程度自由に任せてくれましたけど、衝突もよくありましたね(笑)。

 

先代は、商売人としては一流で「いかにお客さまに気持ちよく商品を買っていただけるか」ということに関して本当にずば抜けていたんですが、足りていなかったのはマネジメント面で。
僕は弱いところにテコ入れすべく、在庫量や販売チャネル、人の配置など、何が適正かを一つずつ考え、積極的に変えていこうとしたんですが、いくらロジカルに話すようにしていても父としては面白くないのか、「なにをいってるんだっ!」と感情的に返してくることもあって(笑)そうなると僕もスイッチが入ってしまうことも多くて、ぶつかるときは相当、激しい喧嘩になりました(苦笑)。

 


写真提供:スーベニール株式会社

 

また、当時の社員はほぼ全員が50代以上。それまでのやり方を変えようとすると、やはり反発もありました。反対されるだけでなく、会議で決まっても現場が動いてくれなかったり。

 

苦労も多かったですが、小さいことを積み重ねていった結果、3年くらいで少しずつ業績が上向いていき、財務的にも安心できるところまで回復して。

 

でもそれは結局、会社にポテンシャルがあったからできたんです。京都という地で100年かけて築いた伊と忠ブランドは、強かった。その信用をしっかりと活かしていけば、まだまだ売れるということもよく分かりました。

 

 

Q. その後新ブランドを立ち上げ、観光おみやげ市場に参入。きっかけはなんだったのでしょうか?

 

A. 戻って2年目に新しいことをやるための人を採用できたこと。また試行錯誤を重ねる中で、この京都という街に向き合えたことです。

 

「何か自分で形に」という想いはずっとありました。でも1人ではできないので、どうしても人がいる。お金が無いながらも、作家さんとのコラボなど新しい取組みを発信して、学校にも求人票を出しました。

 

その結果入社してくれたのが、現スーベニール常務・塩﨑なんです。

 

 

彼女は伊と忠でも、伊勢丹さんとの新規取引などを実現してくれましたが、並行して2人で新しい事業を考え、2005年に『karancolon(カランコロン)』ブランドを立ち上げました。洋服などに合わせる軽めの履物などを作って、三条通に出店したんです。結構、話題にもなりました。

 

ところが、驚くほど売上に結びつかなくて。

 

この事業は、完全に社内の反対を押し切って始めたこともあり、2年以内の黒字化が条件。「どうしよう……」と思って焦りはじめたそのとき、初めて自分の生まれ育った京都という街に目を向けることができたんです。そんな中、改めて気づいたのは観光客の多さ。そして、そのたくさんの観光客をお客さんにするには何ができるのか考えていると、食分野が充実する反面、お土産に関しては食以外のものがあまり充実していないことにも気づいたんです。

 

試しにオリジナル生地のガマ口を作ってみると、これがよく売れて。


写真提供:スーベニール株式会社

 

そこに来てようやく僕も、「履物にこだわらなくていい」と思うようになりました。京都で培ってきた感性や、技術的なバックボーンが自分たちのブランドの本質であって、そのことを忘れなければ少し違う方向性の事業を広げてもいいかなと思えるようにもなって。

 

特にデザインには力を入れましたね。東京のデザイン会社との出会いを通じて生まれたのが、2008年の『カランコロン京都』。ここから観光おみやげの需要にしっかり応えるようシフトして、その後たくさんのブランドを誕生させることができています。

 

 

Q. 老舗と急成長のベンチャー。2つの会社の関係性と今後は?

 

A.スーベニールの成長には、伊と忠の存在なしには語れません。

 

この2つの会社は、事業内容も求められる感性も違うので、今はすっぱりと分けています。でもスーベニールで新しいことができたのは、伊と忠という老舗があったからです。僕の力だけでは、できなかった。販売も製造も、その信用力に助けられました。安定した老舗があってこそ、新しいことができたのは間違いありません。

 

これからのスーベニールは、観光おみやげの市場にまだまだ可能性があると思っています。自社店舗だけでなく、最近始めたフランチャイズでは、地域のお店に運営を任せていて、その地域のためだけに商品を開発できる機動力も培ってきました。

 

社内にはものづくりが好きな人間が集まっていますし、何人もデザイナーがいることも強みかなと思いますね。組織も急拡大しているので、人の育成も大変です。スキルが追いついてなくても任せることで人が育つと思っているので、どんどん任せて仕事を通して成長していってもらっています。

 

その典型が、最初に入ってくれた塩﨑やこの児玉(経営企画部長)ですね。モチベーションによって、人の持ってる能力がどのくらい発揮できるかは全然変わってきます。高い熱量で続けてくれることが最も力を発揮できると思うので、そこはこれからも大事にしていきたいですね。

 

一方、伊と忠は経営をしていく中で、事業拡大をしていくものではなく、むしろ培ってきたブランドの価値を高めていくところに軸足を置くべきだということが分かってきました。規模を求めないと決めると、気も楽になる。続けていくことに集中できます。

 

 

Q. 最後に、家業に戻るかどうかと悩む若者へメッセージをお願いします。

 

A. 家業の今の事業だけをみて判断しないでほしい。自分の熱意ひとつで、何でもできますから。

 

よく聞くのは、「さほどひどい経営状態ではないけど、今やっている事業に興味や魅力を感じない。だから戻らない」という話。それは正直、もったいないと思うんです。

まっすぐな気持ちと自分の熱意さえあれば、好きなことはできますから。
組織に属していては、なかなか経験できないことを自分の熱意一つで取り組めるのが家業なんじゃないでしょうか。もちろん責任やリスクは伴います。でも今ある事業だけを判断材料にして、家業を継ぐか継がないかを判断するのはもったいない、家業で自分の挑戦したいことに取り組んでほしいなと思いますね。

 

(文:佐々木将史/写真:佐々木将史)


スーベニール株式会社
〒604-8118 京都府京都市中京区道祐町141
http://kyoto-souvenir.co.jp/

 

株式会社 伊と忠
〒600-8001 京都府京都市下京区真町81−2
http://kyoto-itochu.co.jp/


 

アトツギベンチャー編集部

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